〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-7
「使命……否、『運命』と言うべきか…」
ユノはエアルが『運命』という言葉を使ったことに、胸の奥が痛んだ。
(この人も自分の運命に縛られて生きているんだ…。って、私は数週間前に知ったばかりだけど)
「俺が10歳になったばかりの頃。先代の王と、王妃が俺を呼んだ。」
王と王妃とは、エアルの父と母である。
「そして一冊の分厚い本を渡し、俺に読むように言った。不思議なことに、その本は俺以外に読めないようになっていて、他の人が読もうとすると文字が消えてしまった。俺は読んで愕然とした。信じられなくて。本にはこんなことが書いてあった…」
それからエアルは昔争いが起こったことや、ブルーストーンの封印の解き方など、ユノがじぃちゃんに渡されて読んだ本と大凡同じような内容のことを話した。しかしエアルの本の方には続きがあって、
【メインブロックは個々の能力に応じた力を持っており、『持ち主となる人』以外その力を操ることはできない。己の利益に走らず、何事にも惑わされず、心して守り抜くが良い。】
と、書かれていたらしい。 一通りの説明を終えたエアルは一息つくこともせず、徐に服を脱ぎ出した。
「えっ…!?わっ、私そんなつもりないよ!!」
大胆なエアルの行動に戸惑うユノ。そんなユノの目の前にエアルは腕をつき出した。
「ちがうから…。これを見ろっての。」
動じずにそう言うエアルの腕には、肩より少し下の辺りに赤く、小さな刻印が焼き付けられていた。それは百合の花を型どったような形をしていた。それを見てユノは目を丸くした。エアルはユノの様子に気付かず、続けて話出す。
「俺が生まれたときには既にこの刻印が焼き付けられていて、メインブロックを守るという契約の証のようなものらしい。過去に何度かメインブロックが危機に晒された時、これが酷く痛んで、そしてその都度自分でも信じられないほどの力を発してメインブロックを守っていた。」
言いながらエアルは刻印を撫でた。
(でもこの女がメインブロックを狙ってるってのにコレ(刻印)は痛まないな…)
エアルがそぅ不思議に思っていると、今度はユノが徐に服を脱ぎ出した。
変装の為に着ていたクロック・カット城の兵士の服が床に落ちる。
「えっ!お、俺もそんなつもりないんだけど!!」
先ほどのユノと同様にエアルも戸惑った。
「違うから!それ、私にもあるの!」
「えっ!?」
思いもよらないユノの言葉。エアルは突き出された腕に視線を落とした。(なんと言ってもユノは背が小さいのだから。) ユノの腕には確に、エアルと同じ場所に同じ刻印が、焼き付けられていた。ただ一つの違って、ユノの刻印は黒い色をしている。 しかし…
(う″ー…視界の端に、たっ、谷間がチラつく…)
兵士の服を脱いだユノはキャミソール1枚だけしか着ていなかった。
(ココは温暖な気候だから分かるけどさぁー)
エアルは極力見ないようにした。と、意識している時点でエアルの頭の中は谷間の事でいっぱいだった。
(この女、露出狂か?)
「ちょっと!聞いてんの!?」
エアルが理性と戦っているとは露しらず、ユノが怒鳴った。おかげでエアルは我にかえり、
「危ない危ない。こんなガキに…」
と思った……つもりだったが、その思いは不運にも口に出てしまっていた。
「『こんなガキ』だとぉ?(怒)」
ユノの目が座っている。
(ヤバイっ!!)
エアルはそう思い、声を張り上げて早急に話題を変えた。
「えっと!!…な、なにぃー!同じ刻印があるだとぅ!?」
かなり芝居地味たエアルの言葉にユノは溜め息をつき、首を横に振った。そして勝手に話を進め始めた。
「私にも同じ刻印が焼き付けられているけど…私はメインブロックの守り主じゃない。『持ち主となる人』の方」
考えをまとめるかのようにゆっくりと話すユノ。
「お前、『持ち主となる人』なのか!?」
今更ながらエアルは驚いた。
「そうよ。なんだと思ってたの?私の名前はユノ。きっとどこかに同じ名前のメインブロックがあるはずなの」
「ユノ…。俺はエアル。よろしくね」
ニッコリ笑って言ったが、エアルはまだ少し疑いの目を向けていた。
「よろしくエアル。もしかしてエアルは『純血』じゃない?」
ユノは一つの考えを口にしてみた。エアルは別段顔色を変える様子もなく、
「純血だけど。それが何か?」
と答えた。
「純血の人は『持ち主となる人』なんだよ。私に渡された本にはそぅ書いてあった」
「ユノも本を渡されたのか?」
(ユノって本当にメインブロックに関する奴なんだ…)
エアルは少し納得した。
「焼いちゃったけどね。あはっ」
ユノが柔らかに微笑みながら言う。
「はっ…はは」
その言葉にエアルは乾いた笑いを返すしかなかった。
(こえーよっ!!)