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〜吟遊詩〜
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〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-16

「王、王妃の殺害…━━」
一人の兵士が呟いた。
「計画は今日だね…」
続けて従女が言う。
「しかし、それは我々の計画の序章でしかない!!」
身動き一つせず、更にもう一人の兵士の格好をした者が力強く言った。
不気味な笑みが部屋に広がる。
この三人以外、言葉を発する者はいなかった。どうやらこの部屋にいる数十人のトップがこの三人のようだった。つまり、王達の殺害の為の中枢核、参謀者たち…。三人の名前は『李ー(りー)』、『シン』、『キョウ』。先の二つが兵士の名前。後が従女のものだ。
「エアルぼっちゃまの今日の予定は大丈夫よね?」
キョウが言った。
「はい。今日は一日中城にいる予定にございます」
数十人の内のエアルの世話係らしき人が答えた。
「いいぞ。部屋から出すなよ!そして王と王妃が午後にお出掛けになった時に……殺る!!」
「…決してエアルぼっちゃまには悟られてはいけない」
「あぁ。幼いエアルが王の座につけば、その幼さにかこつけて城の実質的実権を握ることが可能。そして最終目的はメインブロック…あれは売れば金になるぞ」
「では、最後に配置の確認を……━━」
こうして最終確認は着々と進められていた。

━昼過ぎ━━━
「エアル…いい子にしてるのよ?」
王妃がエアルの頭を撫でた。
「もう子供じゃないよ…」
「一人で留守番が怖いからって泣くんじゃないぞ?」
むっとした顔のエアルを王が更にからかう。
雲のように真っ白な馬が揚々と王と王妃を乗せた馬車を引っ張って行き、その姿は直ぐに見えなくなってしまった。
「ささっ!エアルぼっちゃま、お部屋に戻りましょうね?お体に障りますよ」
キョウが優しくエアルを促す。言われるがまま、エアルは部屋に入っていった。
李ーとシンとキョウの三人のうち、城に残ったのはキョウだけで、後の二人は王達について行った。
「ぼっちゃま?昨日、王様から渡された本には何て書かれていたのです??」
キョウはエアルの部屋を整えながら尋ねた。
「君は興味があるの?」
書き物をしていた手を止めてエアルが言った。
「…そうですね。ないと言えば嘘になりましょうか…」
「そうだよね。それが普通の反応だよねー」
(父も母もやはり興味があったのだろうか…しかし、こう聞かれると答えるのは難しい事だなぁ。さすがは父と母。僕の気持を酌んでくださっていたのかな)
キョウの質問を流し、エアルは思った。上の空で考え込むエアルをキョウは横目で観察した。
(…何を思ってるのかしら?バレてはいないわよね)
キョウの心配をよそに、エアルは何事もなく普段と変わらぬ時間を過ごしていった。
 日はすっかり落ちてしまい、辺りは真っ暗になった。小さな国であるクロック・カットはこの時間になると虫の音しか聞こえない。今日も変わらずに静かな夜であった。
 「エアルぼっちゃま?お料理が冷めてしまいますよ。召し上がったらいかがですか?」
「…父上と母上を待ってる…。」
『グ〜』っとうるさく鳴るお腹を抑えながらエアルが答えた。
「それにしても遅くない??夕飯には間に合う予定だったのでしょ?」
不満気に時計を眺める。ちょうど7時を知らせる鐘が鳴った。
「僕…ちょっと出てくる」
エアルが呟いた。部屋にいた者たちに緊張が走る。この部屋は全てではないが、あの計画に加わっている者がほとんどだった。
「あらあら、今日はご機嫌ナナメですね。そんな我儘だとお父様たちはお困りになりますよ」
キョウがフォローをした。一同胸を撫で降ろす。エアルは子ども扱いされるのが一番嫌いだった。だからこう言えばエアルは思い止まるだろうと考えてのフォローだった。しかし、
「…我儘でもいいもん。今日は一緒にご飯食べたい気分だもん」
昼間に王と王妃のさりげない優しさを理解し、エアルはどうしても二人に会いたかったのだ。
王と王妃の殺害は帰り道で行われる予定である。
(今、エアルぼっちゃまに出て行かれては困る…!)
そう考えて、皆が顔を青くした。
「では、私共が出て見てまいります。エアルぼっちゃまはお待ちになっていてください」
「そうですね!エアルぼっちゃまに何かあっては困りますからね」
次々とエアルを止める言葉が発せられる。
(困る?どうして?…僕はちっとも困らないよ!)
エアルは渋々納得したように頷きかけた。その時、
「私がエアルぼっちゃまに付いて行こう。エアルぼっちゃま、準備をなさってください」
そう言ったのはシェンだった。今日は特別に聞き分けの良くないエアルを不思議に思って、シェンは申し出たのだ。当たり前だが、シェンは王、王妃暗殺の計画には参加していない。
「えっ!?」
予期せぬ出来事に部屋中の動きが止まる。シェンは城一番の最高齢とまでは行かないが、やはり長くこの城に仕えているということでシェンに意見するようなことは普段からあまりないことであった。それは今も例外ではない。
今、口ごたえすれば怪しまれる!
皆そう考え、策を巡らせている。そんな事はミジンも気付かず、エアルは嬉しそうに、
「馬を出して!それだけでもう準備できるから」
と声を張り上げた。短剣を腰に挿すと、エアルは風のように外に出てしまい……
計画に参加している者だけが呆然と部屋に残された。


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