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〜吟遊詩〜
【ファンタジー その他小説】

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〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-15

「分かんない…意識もあまりなかったし。でも、エアルに信じて欲しかった。エアルも『信じたい』って思ってたでしょ?」
絡み付くユノの紅い視線。逃れても、逃れても、痛いほどエアルを見透かす。ユノがエアルの腕の中から起き上がろうとするのを支えながら、エアルはシェンに言った。
「シェン、こいつが侵入した奴だ。シェンの心配を裏切って悪いが、俺は殺さなかった…ユノもまた、メインブロックに関係があるようだったし」
シェンはユノを見た。ユノも入り口付近に立っている老兵士に目をやる。シェンにもやはり、ユノの紅い瞳が目についた。シェンは静かに口を開いた。
「エアル王がユノ殿を殺しにならなかったのはメインブロックなど関係ないと思います。ユノ殿のこの瞳…。王がユノ殿を信じたくなる気持ち…私にも分かります…」
シェンのショボくれた目から一筋の涙が頬を伝った。「別に信じたいなんて思ってないって…」
エアルは小さくぼやいた。それが聞こえないようにさらにシェンは続けて、
「ユノ殿。詳しいことは分かりませんが…貴方がメインブロックに関係のある方なら尚更、聞いていただきたいことがあります」
と言うと、軽くエアルを見た。エアルは何も言わなかった。言うだけ無駄な事…そう思っていた。
(俺のことを分かってくれるヤツなんていない。ずっとついて来てくれたシェンも分かっていない。今日初めて会ったやつに俺が分かるわけがない…)
言うだけ無駄な事…
エアルは目を伏せた。エアルが止めようとしないことが分かるとシェンは静かに話始めた。
「あれは、エアル王がまだ即位なさっておらず、エアル王のお父様、お母様の代の事にございます。それは静かな朝でした…━━━」

 静かな朝だった。エアルは王と王妃、三人で朝食を取っていた。カチャ、カチャと、ナイフとフォークが皿にぶつかる音だけが部屋には鳴り響き、豪華な朝食が沢山並べられた長いテーブルの向こう側で王と王妃がエアルに笑いかけていた。
まさに平和そのもの…。
静かな朝だった……。
「あの…!!」
エアルは沈黙を破り、おずおずと話しかけた。今と変わらない大きな黒い瞳が困ったように歪んでいる。王と王妃は相変わらず優しい瞳を向けてエアルの次の言葉を待った。
「あの…、昨日の本に書いてあった内容をお尋ねにならないのですか?それとも、父上や母上は内容をご存じで…?」
昨日の晩、エアルは両親に一冊の本を渡された。つまり、それはメインブロックやブルーストーンの事が書かれている本で、エアルはその小さな体にメインブロックを守るという重い使命感と、運命を感じたものだった。
「知らないわ。どうしてそんな事聞くの?」
王妃がナイフを止め、エアルに言った。
「……っいえ…」
エアルは言葉につまった。本の内容は、まだ10歳のエアルが受け止めるには重すぎるようなものだった。現実を叩き付けられたエアルは一人で処理できずに、両親に本の内容を話してしまいたかったのだ。そうすれば少しは肩の荷が降りるだろうと思ったから。
しかし、王妃に尋ねた返されエアルは黙ってうつ向いてしまった。
(これじゃぁ、自分の運命から逃げてるみたいだ…でも…)
自分の手元を睨む。エアルが黙っているのを見ると、今度は王が口を開いた。
「ワシら、興味ないもん」
30、40代くらいの若い王はエアルにそっくりの黒い瞳を悪戯に輝かせ、必死に手元の皿に横たわる焼き魚に勝負を挑みだした。
「父上…興味ないのですか?」
「あぁ。お前しか読めない本の内容をなぜ、わざわざ聞かねばならぬ?面倒なことよ…それに、息子に物事を教えられる程まだモウロクしとらんわ」
王はそこまで言うと、王妃と目を合わせ、
「「ね━━━♪♪」」
と微笑み合った。
愛し合うこと限りなし…!!
(…この二人はっ…息子の一大事だというのに)
エアルは口を尖らせながら、パンに手を伸ばした。


 エアルは自室にもどり、ベランダに出た。柔らかな太陽の光。
「うん……言わなくて良かったのかもな」
エアルは呟いてみた。ワザとらしくその言葉を口に出したのは、それを本心にするためだった。
(きっと父も母も私が乗り越える試練だと諭したかったのかもしれない)
そう考え、エアルは納得することにした。そんな事を思いながらエアルは今日もいつもと変わらぬ日を送るはずだった。


 《クロック・カット城 ある一室》
 暖炉が明るく燃える、八畳くらいの割りと小さな部屋に兵士や家臣、従女が数十人ほど集まっていた。ここは、ある兵士の自室で、暖炉の他には小さな机と、天がい付きのベッドがある。兵士、家臣の部屋にしては立派な方かもしれない。
ここに集まった者達はクロック・カット城に仕えている者で、ある一つの目的の為に集まっていた。


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