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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲(フーガ)〜第一章(前編)〜-8

8 第二部 「冥界」

闘夜は夢を見ていた。
自分が山の中を死に物狂いで走っている夢を。
そして、誰かに追われている夢を。



「・・・!!」
闘夜は夢から目覚めた。
体が息切れしている。
…嫌な夢を見たな。
闘夜は苦い笑いを浮かべる。
その悪夢は一週間に2,3回は見る。
そしてそのたびに闘夜は心身共に重たくなる。
…いつまで経っても全然なれないな…。
病気のようなものだと闘夜は思っている。
それも不治の病。
きっと一生治らないのだと自覚している。
そしてこれからもずっと自分を苦しめていく夢だと考えている。
それでも闘夜は考えてしまう。
…どうやったらこの不治の病の治せるのだろう?
何せ本当の病ではない。
治し方など全く分からない、が、何かをきっかけに治るかもしれない。
とも考えている。
「目覚めましたか?」
闘夜はその声に応じるように自分の思考の世界から脱出する。
「大丈夫ですか?」
闘夜は仰向けに寝かされており、頭の後ろには柔らかい何かが当たっている。
そして、自分の少し上には自分とは反対の方向を向いた少女の顔がある。
自分と少女の顔の間にはペールバイオレットの色をした髪の毛が流れ込んでこちらの顔に少し当たっている。
少女はその髪の毛を救って、後ろの髪に合流させながら、
「お母さんの夢を見ていたのですね。」
「ああ。」
闘夜は頷く。
そう、悪夢とは、母の夢だ。
母に、殺されかけた時の夢だ。
ナンデ…カアサンハ…オレヲ…
「!?」
闘夜がいきなり上半身を起こした。
「きゃっ!?」
少女がそれにビックリして黄色い声をあげる。
しかし、闘夜にとってそんな事はどうでもよかった。
「ちょっと待て!!何でお前は俺が母さんの夢を見たって分かったんだ!?」
と言いながら、闘夜は周りの景色を見る。
「っていうか…ここはどこだ?」
周りの景色は闘夜が全く見たこともない場所であった。
見たところ、殺風景な部屋であった。
固そうなソファーがあり、机があり、観葉植物がある。
そして本棚があり、難しそうな本がびっしりとつまっている。
壁は一面真っ白で、床も白だ。
たった、それだけの部屋であった。
自分は今、机を中心に向かい合わせたソファーの片方に座っているのだと理解した。
そして起き上がった時に気付いたのだが、
「俺…膝枕されてた?」
「すいません!」
少女はいきなり謝ってきた。
「でも、ここのソファーはけっこう固いし普通に頭を置いているとだんだん頭が痛くなってくるんです。だから…」
「う、うん、分かった。ありがとう!でもその話はひとまず置いといてもらえないか?」
闘夜はわれながらバカなことをした、と思った。
…さっきにもいくつも質問しといて、いきなり膝枕などと言ったら相手はパニックを起こすに決まっているじゃないか!
闘夜は心の中で己を殴っておいてから、今、自分が最も知りたい事から質問していく事にした。
自分が最も知りたかった事、それは、
「お前は…誰だ?」
「はい?」
少女は首をかしげてきた。
しかし、少女はあ、と声をあげて、
「そうですね、地上にいたときは顔が分かりませんでしたね、失礼しました。
改めて自己紹介をいたします。
私は一神 癒姫です。」
どこかで聞いた名前だな、と闘夜は思う。
3秒ほど経って、闘夜の頭の中にようやく地上での出来事が思い出されて、
「あ、そうだ!俺は…学校の屋上にいて、そしてお前に遭ったんだ。」
「あの…ちょっといいですか?」
「ん?」
癒姫がもじもじしながら、
「私、ちゃんと自己紹介したんですから、名前で呼んでもらえませんか?」
「ああ、そうだな。ごめん。訂正するよ。」
闘夜は少し慌てた様子を見せながら癒姫に謝った。
「俺は、学校の屋上で、癒姫と会ったんだ。」
「ゆ…」
とたんに癒姫の頬が真っ赤になる。
「そしてその後…俺は…」
闘夜は癒姫を無視して思考を続けていた。
「そうだ!俺は癒姫と冥界に行ったんだ!屋上のドアを通って…それで…」
「あなたと私は、ここに来ましたの。」
癒姫がゆっくりと立ち上がる。
「ようこそ冥界へ。神無月 闘夜さん。」
癒姫が優しい笑顔を闘夜に送る。
こうも自然に笑顔を出されると、闘夜も頬を少し赤くさせてしまう。
「あ、どういたしまして…」
闘夜はついついペースに乗せられてしまった。
「って事は、ここが冥界なのか…?」
「はい、ここが冥界です。と言っても、この中ではあまり実感はわきませんよね?」
癒姫は苦笑しながら言った。
闘夜は頷いて、
「冥界にも、こんな地上に似たような所はあるんだな。」
「それは当然です。冥界も人の住む所は人が作っていますから。」
「へえ…そうなんだ。」
闘夜は対して驚かなかった。
地上にいたときにさんざん驚かされた。
よっぽどの事がない限りは驚かなくなっているだろう、と自分で思う。


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