冥界の遁走曲(フーガ)〜第一章(前編)〜-7
7 今、自分はどこにいるんだろう?
自分の部屋?
違う、学校の屋上だ。
今、自分は何をしている?
目をつぶって寝ている?
違う、女の子の話を聞いている。
そして、驚いている。
闘夜は思った。
今日、自分は何回驚いているだろうか?
答えは明白だ。
…数えられるかバカ。
しかし、今回の驚きは今までのものよりもすごいかもしれない。
なぜなら、
「それって…俺が冥界に行けるって事か?」
闘夜は自分が例外と呼ばれた理由を把握している。
この、”幽体離脱”の能力のせいだ。
「そうです。あなたは精神のみの状態にいつでもなる事が出来る。
それはすなわちいつでも冥界にいつでも行けるという事です。」
癒姫が微笑みながら言う。
もっとも、今までの微笑みも夜の暗闇のせいで闘夜には見えていないが。
「冥界とは、すなわち精神が”生きている”世界なのです。」
それはすなわち、体が生きている地上とは逆の立場にある、という事だ。
「一度来て見ますか?冥界へ。」
楽しいですよ?と癒姫は付け足した。
「こっちには戻ってこれるのか?」
闘夜は疑いながら聞いた。
「ええ、いつでも戻ってこられますよ。」
癒姫は見えない微笑を闘夜に向ける。
「本当だな?俺を騙したりしてないな?」
「はい、私は人を騙したりすることが大嫌いですから。」
平然と言った。
闘夜はまだ信じきれてはいないが、
「分かった。行ってみよう。冥界というのが本当にあるのなら俺はこの目で見てみたい。」
「じゃあ行きましょうか。」
そう言って癒姫は闘夜に手を差し出す。
しかし、闘夜は慌てて、
「ちょっと待ってくれ!冥界にはどうやって行くんだ?」
「大丈夫です。私がこの屋上に来る時に”ドア”をあけておきましたから。」
それを聞いて闘夜は冥界への入り口が屋上のドアの奥の事を言っているのだと知る。
「冥界への入り口は冥界の者、それも限られたごく一部の者にしかあけることが出来ません。
そして冥界への入り口という事は地上への出口という事ですから覚えておいてください。」
「あ、ああ…」
覚えとかないといけないのか?
話が一通り終わって、心の中でツッコみを入れる余裕が出来た。
ツッコみを一瞬で終えてから闘夜は癒姫の手を優しく掴む。
「じゃあ案内してもらおうか。」
「喜んで。」
2人は手をつなぎながらゆっくりとドアの奥へと足を進めた。
そして同時に、冥界での物語がここから始まる…。