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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲(フーガ)〜第一章(前編)〜-12

12 商店街では、癒姫が1人テンションを上げていた。
八百屋に行ってはりんごを買ってそのままかじって見せたり、
アクセサリーショップではイヤリングを付けて喜んでいた。
「次はどこに行きますか?」
癒姫がわくわくしながら闘夜に次に行く所を求めてきた。
闘夜からしても些細な事が分かった。
地上と冥界ではお金が全然違う。
単位は一緒だが、使われている金属や札の絵が全く異なっていた。
「俺、冥界は初めてだし、お金も持ってないし、何見ればいいか分からないよ。」
闘夜はやれやれ、と言った感じで手を横にやる。
意識体では金は持って来れない。
服は?という疑問はご遠慮願いたい。
「確かに、お金も少なくなってきましたね…」
癒姫は自分の財布の中を見てつぶやく。
「ちょっとそこのお2人さん。」
ふいに闘夜と癒姫は声をかけられる。
2人が前を見ると、男女2人組みが立っている。
1人は長身の男。
髪の毛はオールバックだ。
もう1人は少し小さめの少女。
髪の毛は茶髪のショートカットだ。
話しかけてきたのは男の方だ。
「いや、正確に用があるのはそっちのお兄さんだけなんだけどね。」
男がそう言うと、いきなり闘夜を指差した。
「兄さん、俺と勝負しないか?」
「…はい?」
いきなりの事に、闘夜の脳はそこまでついていけない。
「俺と戦って勝てたら賞金2万円を君にくれてやる。どうだい?」
と、ここで返事をしたのは意外にも癒姫だった。
「何やってるんですか?龍也さん?」
「え!?」
いきなり名前を呼ばれた事に男はもちろん、傍にいた少女も驚いている。
「あれ?癒姫知り合いか?」
闘夜が尋ねる。
「ああ、紹介しますね、こちらが『戒』特攻部隊隊長の御剣 龍也さんです。
そしてこちらが『戒』特攻部隊副隊長の三神 楓さんです。」
癒姫は機嫌がいいので笑顔で紹介する。
紹介された2人は驚いている。
「な、何で俺達の事知ってんだ!?」
「その肩書きを知ってるなんて、あなたガヴァメントの関係者!?」
「神無月さん、ところで、次どこ行きますか?」
「っておい!話飛びすぎ!!」
癒姫がきゃっ、と驚く。
闘夜、龍也、楓が3人同時にツッコみを入れたのだ。
「お譲ちゃん,問題はそこじゃねえだろ!!」
龍也がさらにツッコみを深くする。
「待って、龍也…、私この子に見覚えあるわ…。」
隣りにいた楓がう〜ん、と考え出す。
「冥界の奴らはみんなマイペースなんだな。いいんだか、悪いんだか。」
ふぅ、と闘夜がため息をつくと、
「あ〜〜!!」
楓が大声をあげた。
どうやら思い出したらしい。
「楓!何か分かったのか!」
うん、と楓は頷いて、
「この子、一神 癒姫よ!私と同じ、『死神』の子なのよ!」
楓が言った瞬間、癒姫がすごく暗い顔をした。
しかし、闘夜は癒姫の事などかまわずにただ驚くばかりだ。
「癒姫が…『死神』!?」
死神といえば確か地区管理を仕事としているガヴァメントの三権の内の一つだ。
「おいおい、楓、問題はそこじゃねえだろ?みんなして話し飛ばしやがるな。」
龍也がそう言うと、龍也はいきなり腰に着けていた剣を抜いた。
かなり大きな剣だと分かるが、龍也の体の大きさがそう思わせなかった。
両刃の剣で、その切っ先は鋭く光っている。
龍也はその剣先を闘夜の首に向けた。
周りにいた人達はざわめきをたてる。
もちろん、龍也が闘夜に剣を抜いた事にたいして、だ。
「やるのか?やらねえのか?」
「…勝負の内容を聞いておこうか?」
闘夜が剣の切っ先を手で他の方向に退ける。
その行動に癒姫はいささか驚く。
「俺の『威太刀』に触れるんじゃねえ!!」
龍也はいきなり我を見失って剣を己の元へと引いた。
そしてその次の一瞬で闘夜の心臓めがけて”突き”が放たれた。
癒姫は思わず目を閉じる。
楓はかなり慌てながら見ている。
闘夜は、それをしっかりと目では追えている。
そして、龍也は全く剣を寸止めする気も、引く気もなさそうだ。
それが分かった瞬間に闘夜は動いた。
自分の手のひらを重ね合わせるようにして、剣を挟みこんだ。
いわゆる”真剣白刃取り”という動作だ。
「…!?」
これには龍也も楓も驚いていた。
戦闘経験もないはずの高校生がいきなり真剣白刃取りをするなんて、普通ではない。
しかし、龍也はすでに次の動作に入っていた。
「だからさわんじゃねえって言ってんだろ!!」
龍也はそう言うと両手で持っていた剣の右手だけを離した。
そして剣の柄尻を拳で叩く。
すると、剣に運動エネルギーが発生して、剣は前に飛ぼうとする。
闘夜が真剣白刃取りをして抑えている剣は、その手をすり抜けるように闘夜の心臓めがけて飛び出してきた。
「くっ!!」
ここで闘夜は持ち前の運動神経と反射神経の全てを使って回避に徹する事を決めた。
まず、飛んで来ている刃の部分に重ねるように置いてあった手のひらを真上に向ける。
しかし、手は伸ばしきらない。
その後、闘夜は体の上半身を後ろにどんどん曲げていく。
どんどん曲がっていく上半身は刃が通るのを見届けつつ、どんどん地面に近づいていく。
やがて、刃が闘夜の上半身の上を空を切って通りすぎて、通過する。
闘夜はその後、手の平を地面につけた。
ブリッジの状態となった体はそのままバク転を行って元の状態へと戻った。


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