魔の子-3
「危ないっ!!」
アルはリアを突き飛ばした。さっきまでリアがいた場所に激しい衝撃波が走る。木は縦に真っぷたつに切れ、地面が割れた。
「誰だ!!」
倒れたままのリアを庇うように立って、アルは叫んだ。その目は、もう葉が落ちきった別の広葉樹に向けられている。
「ワシの声を忘れたのか、アル」
太い木の幹の裏側から現れたのは、アルもよく知っている老人だった。右手には大型のナイフを携えている
「失敗には、ギルド長自ら制裁を…」
「アウル…じーさん…」
驚きで、アルの深い青色の瞳がいっぱいに見開かれる。アウルはその隙を見逃さなかった。
「神速剣・縦…」
アウルはそう言うとナイフを振り上げ、一瞬にして約15?の距離を詰めた。その勢いも乗せて繰り出される大型ナイフの一撃は、アルの小型ナイフをあっさり弾くと、そのままの勢いでアルの左肩へと振り下ろされる。
「ちぃッ!!」
アルは後ろに跳んで攻撃をかわす。
「甘いぞ、アル!!」
振り下ろした右手を左腰に戻しながら、左手でナイフを投げる。
「くぉ…」
後ろに跳んでいたアルは体をひねってナイフをかわす。しかし、その間にアウルの右手は左腰に動いており、そのまま右に切り払った。
「神速剣・横!!」
バランスを崩して左手で着地したアルに、素早く距離を詰めたアウルのナイフが迫る。
「俺は…絶対リアを守るんだ!!」
アルは頭を地面すれすれまで下げて、横になぎ払う一撃をかわした。
「あの体勢でよけることができるのか!?」
アウルが叫ぶ。
「隙だらけだぜ、アウルじーさん…」
地を蹴り、超前傾姿勢で前へ跳ぶと、アルの拳がアウルの腹に突きささる。
「ぐほぉっ…!!」
ドサリと地に倒れ伏すアウル。
「ごめんよ、じーさん。でも俺は、リアを守りたいんだ…」
アウルを見下ろして言うアル。その青い瞳には強い決意が浮かんでいる。するとアウルは、
「アルよ…朝、隠してたことがあったのだが…」
内臓を痛めたのか、息苦しそうに言う。
「なんだじーさん、言ってくれ…」
さっき切り裂けた木の元へ向かうアル。戦闘で大した距離は動かなかったので、すぐに木の元に着いた。
「リア、もう大丈夫だ」
アルはしゃがみ込んでいたリアに手を差し伸べる。しかしリアはその手を無視した。
「リア、急がないと別の追手が来るぞ!!」
それでも、膝を抱えた腕は動かない。
「私といると、貴方が危険にさらされるから…」
「リア!!」
アルは、名前を呼びながらリアを抱きしめた。