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魔の子
【ファンタジー その他小説】

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魔の子-2

 午前の講義が終わると、アルは昼飯も食べずに大講堂を飛び出した。朝の封筒に手紙と一緒に入っていた地図を見ながら、街外れの工場を目指して駆け抜ける。緊張や高揚で、疲れは気にならないようだ。結局、出発から20分ほどで着いた。

「お、ここだな。雰囲気もそれっぽいし…」
アルの見上げる先には、所々で塗装が剥がれ鉄骨も折れている、ボロボロの工場があった。
「…ほっときゃ工場が崩れて、勝手にくたばるんじゃねぇの?」
文句を言いながらも、工場の扉を開く。耳障りな音を響かせて、扉は手前に開いた。
「おじゃましま〜す」
アルは思わず挨拶をしてしまったが、本人も気付いていなかった。大量のダンボール箱やドラム缶を左右に分けながら、アルは工場の中心へたどり着いた。
「あれが、魔の子…」
アルが見つめる先、工場の全てを支える大きな柱に、ソレは後ろ手で縛り付けられていた。
「よ!」
アルは魔の子に話しかける。
「…あなたも私の命を狙っているのね」
透き通るような、綺麗な声にアルは思わずドキッとした。
「私はなにもしてない…でも貴方は、私を殺すのですね?」
覚悟を決めたような、はっきりした声。アルはその声の持ち主が気になって、ペンライトで魔の子の顔を照らす。
紅い髪は肩の辺りで切り揃えてあり、紅い瞳は涙を溜めていた。少し砂で汚れているものの、肌は透き通るように白い。アルは息を呑んだ。
(か…かわいい…)
言葉をなくして立ち尽くすアル。
「答えないのですね…」
「いや、違っ!!」
慌てたアルの口からは、否定の言葉が出た。
「俺は…その…君を助けに来たんだ!!」
魔の子の顔は驚きの色に、アルの顔は後悔の色に染まる。魔の子はすぐ嬉しそうな顔になった。
「ほ、本当に?」
その紅い瞳に見つめられると、アルは引っ込みがつかなくなった。
「そ、そうなんだ!!…もうすぐ盗賊ギルドの奴らが来るから、急いで逃げないと!!」
魔の子の腕を縛り付けている縄を、小型ナイフで切る。そして、魔の子の手首を掴むと走り出す。

(失敗には、死を――)

アルの脳裏に、何百回・何千回と聞いた言葉がよみがえる。
「おいアンタ、名前は?」
嫌な言葉を頭から追い出そうと、走りながら名前を聞くアル。
「はぁ、はぁ…」
会話どころではないようだった。
「しゃあねぇ、休むぞ」
しかし、もう秋も更けて丁度良い木陰がない。アルは太い針葉樹の陰を選んだ。

「…んで、アンタ名前は?」
魔の子の呼吸が整ったのを見て、アルが聞いた。
「私はリア・レーゼン」
「俺はアルヴィス・レイス。アルでいいよ」
2人は並んで座り、木に寄り掛かりながら自己紹介をした。その後も2人の話は弾んで、アルはギルドの戒めを破ったことなどすっかり忘れていた。
が、その時。

「失敗には、死を――」

 あの言葉が聞こえた。


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