異界幻想ゼヴ・ヴィストラウレ-1
その日、基地の外れにある寂れた練兵場には不釣り合いな人数が集まっていた。
研究所からの選抜チーム。
医療班。
ガルヴァイラにザッフェレル。
話を聞いて、ユートバルトとファスティーヌまで駆け付けた。
「しかし、えらい人数だな」
ストレッチをしながら、呆れ顔でティトーは言う。
「仕方ないでしょう」
同じく呆れ顔で、フラウは言う。
「初代以降起動していなかった、バランフォルシュの起動ですもの」
「だな」
ティトーは、少し離れた場所へ視線を走らせた。
神機の操縦について、ジュリアスが深花へあれこれとレクチャーしている。
「基本は、生身の時と変わらない」
その口調は、心配の色が滲み出ていた。
「自分の感覚の延長だ。ただ、バランフォルシュが何をどこまで扱えるのかは誰も知らねえしな。召喚できる得物さえ知られてないし……バランフォルシュがお前に、どんな危害を加えてくるかも分からない」
医療班が待機している理由に、深花はようやく得心がいった。
「死なない程度に頑張るね」
そう請け負うと、まだ何かを準備している研究所チームへ視線を投げる。
「まだ死ねないもの」
ぽつりと付け加えると、深花は空を仰ぐ。
かつて、祖母が何をしていたのか。
バランフォルシュは、何を隠して苦悩しているのか。
この世界まで来た途端に示された謎を解くまで、自分は死ねない。
「そうだ。死ぬな」
ジュリアスが、そっと頬に触れてくる。
近頃は傍にいると何かにつけて体のあちこちにジュリアスの指先が触れているので、特に何とも思わなくなってしまった。
「後進が育ってないのに、私が死んだら大変だしねー」
わざとおどけた深花は、研究所チームの一人がこちらへ歩いてくるのに気づいた。
「たいへんお待たせして申し訳ない。こちらの準備が整いましたので、神機の起動をお願いします」
「はい」
深花は返事をして、神機が立てるくらいに開けたスペースに向けて手を突き出す。
指先に向けて、『力』が集中しだした。
びりびりと、全身に力が満ちていく。
「!」
両肩に、ジュリアスの手が乗せられた。
思わず振り向けば、励ますように微笑まれた。
一つ頷いて、深花は呼ぶ。
「バランフォルシュ!」
呼び声と共に、力が滞留した指先から一気に溢れ出た。
「っく……!」
反動で思わずよろけるが、ジュリアスに抱き留められる。
「おお……」
「これが……!」
口々に、驚きの声が上がった。
黄土色のベースにレモンイエローの縁取りを施してあり、細部の装飾などは異なるが全体的なシルエットはかつて目撃した天敵が操る神機と酷似している。
参加者の何人かが祈りの仕草をしたりひれ伏したりしているのは、バランフォルシュを信奉しているからだろう。
「……バランフォルシュ」
深花の声に呼応して、バランフォルシュの背中がぐぱりと開いた。
「……え?」
バランフォルシュの中身を見て、四人は驚きの声を上げる。
桃色の筋肉が詰まっている他の三機と違い、バランフォルシュの中身は白かった。
白い筋肉……いや、違う物を連想させる。
規則正しく並んだ触手のようだと、深花は思った。