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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ラショルト-24

「ジュリアス!!」
 耳元で弾けた声に、ジュリアスは顔をしかめた。
「……うるせーぞ」
「だって、だって……!」
 泣きじゃくる深花を抱き、ジュリアスは頬を緩めた。
 成り行きを見ていた憲兵舎の詰め所にいる連中から冷やかしの声が次々と上がり、彼を辟易させる。
 色々便宜を図ってくれた憲兵から事情は憲兵達に知れ渡ってしまっており、いましがた行われた再会では真っ先に泣き始めた女を抱いているのだから、憲兵達には自分が誰に惚れているのか一目瞭然という事だ。
「迷惑かけちまったな。済まなかった」
 ティトーとフラウに謝ると、ティトーは僅かに視線を逸らす。
「完全無罪とはいかなくて、司法取引が必要だったけどな。アルコーキルが馬鹿で助かった」
 アルコーキルの認識の甘さを含む落ち度を糾弾し、ジュリアスの無罪を声高に主張した事で罪はずいぶん軽減された。
 しかし、軽減できなかった分は……。
 ティトーは、深花の背中に視線を注ぐ。
 ジュリアスに抱かれたその体は、あまりにもか細い。
「司法取引って……」
 不審そうなジュリアスの腕に触れ、深花は注意を引き付けた。
「私がティトーさんに頼んだの。交渉材料に使えるなら、遠慮なく使って欲しいって」
「記憶を借りるだけで十分だったんだが、深花がお前に前科をつけさせたくないって主張してな」
 ティトーがそう言ってジュリアスを牽制してから、深花は打ち明ける。
「司法取引の内容はね、私がバランフォルシュを起動させる事」
 初代の頓死以降起動させる事のなかった神機バランフォルシュを動かし、データを取る。
「お前……!」
 驚愕するジュリアスに向かって、深花はふるふると首を振る。
「あなたが無罪になるためなら、平気」
「なんでそこまでっ……!」
「だって」
 その笑みは、ひどく儚くて。
 掴めば消えてしまいそうで。
「あなたは将来国に役立つ人だけど、私はそうじゃない。経歴は、綺麗な方がいいでしょう?」
「数ヶ月前リオ・ゼネルヴァに飛び込んできたばかりで親戚の有無さえ知れない身分の軽い平民と、将来は国の中枢に関わる大公爵の公子。その差は重いっつって聞かなくてな」
 ティトーは、頭をぼりぼり掻いた。
「くだらない」
 しかしその目は、ジュリアスを射抜く。
「けど、重い覚悟だ……」
 問う。
「背負えるか?」
 口元に、不敵な笑みが浮かぶのが分かった。
「背負うさ」
 答は、とてもシンプルだった。
「背負ってみせる」


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