〜吟遊詩(第1部†序言・運命†)〜-7
ユノは実戦はないものの、自分のブレッドがあのよぅな戦いに纏わるものだったため、神の定めなのであろうとそれが運命ならば、いつか存分に力を発揮できるようにと日々訓練はしていた。
(でも、じいちゃんがあんなに戦えるなんて知らなかった。)
17年も一緒にいたが、本当は何も知らないのかもしれない。
そぅ考えると、ユノはどぅしてもじいちゃんを助けたかった。
(何も関係ないのに…私を拾ったばっかりに私の運命に引き込んでしまった。不良品の私のために誰かが傷付くことは、きっと神サマだって許しては下さらないだろぅ)
ユノはメインフロントに着いた。ドアに手を掛けようと延ばした。その手は震えていた。
(怖いの?)
震えを抑えながら心のなかで自問自答する。
(まさか。敵が誰か分からないことが怖いんだよ。人間は得体の知れないモノに恐怖を感じるものだからさっ…お化けとかね。)
「敢えて言うなら武者震いってやつ…。」
気合いを入れようとその部分だけ声に出して言ってみた。そぅしてドアは開け放たれた。
━━ガチャッ━
その音に気付いて、じぃちゃんとサン、それに椿も身を乗り出してドアに目をやった。
「ユノ!来るなーっ!!」
結界が破られた時点でユノが来るであろうことは予測できていた。そして、戦いについていけるほどの力をすでにユノが持っている事も分かった。しかし危険であることは変わりない。ユノが来たら椿がどぅ出てくるのか想像ができないから。
じぃちゃんの声を聞いて躊躇するユノの目の前に黒い桜の花びらが広がった。
「捕まえた━━♪」
屋根から降りてきた椿。椿の体から花びらが散り落ちる。スラリと長い椿の腕がユノの体を捕えた。
「ユノー!!!」
じぃちゃんが叫ぶ。しかしその体はサンに押さえ込まれていて身動きが取れない。
「じぃちゃぁーん!!黒いやつらはー?」
ユノが叫んだ。
「黒いやつら?」
あまりにも緊張感のない質問に頭が良く回らないじぃちゃん。サンも拍子抜けしたよぅで
「変なコ?」
と呟いた。
「えっ…と。ワシが倒したんじゃけど?」
じぃちゃんは取り合えず答える。
「ふ〜ん。やっぱり強かったんだねーじぃちゃんって…じゃぁ……」
捕まれていた椿の腕を素早く掴むと、一瞬のうちに剣を創造し、椿の喉元にそれを突きつけた。
「じゃぁ、あんた等がラスボス?」
「今日のところはな…」
そぅ椿が答えた。
「目的はなに?」
相変わらずユノの剣は喉元に向いている。
「お前が欲しい…」
椿がそぅ言うと風がザワついた。黒い花びらが散る。ユノに戦慄が走った。そして敵はやはりブラインド・チェリーなんだと確信した。『桜』の花びらがそれを思わせた。椿は自分の喉に向けられていた刃を摘むとピンっと弾いた。いとも簡単にユノは倒れこんだ。信じられなかった。ユノは手を抜いていたつもりはなかったから。
(たった2本の指で私の剣を弾いたの!?)
呆然とするユノの横で椿がサンに向かって叫んだ。
「おぃっ。もぅ殺していいぞ。ユノが手に入れば問題ないから」
サンはじぃちゃんの喉に手を掛けていた。
「はーい♪」
椿の言葉を聞いてサンは指に力を入れた。じぃちゃんが苦痛で眉をしかめる。しかし、じぃちゃんは陰で掌を合わせると
「スパインッ」
と唱えてその掌をサンに向けた。薄い板に幾つもの棘が付いたものが勢い良く現れた。
「わぁっ!」
イキナリのことでサンも驚いたが素早く、反射的に避けきった。じぃちゃんの喉から手が離れてしまったが。じぃちゃんの練った棘の板が地面にぶつかって崩れると、そのあまりにも大きな音がユノを現実に引き戻した。
(軽く勝てるわけはない!戦う事は常に覚悟していた。分かって来たんじゃないか。じぃちゃんを巻き込みたくなくて…やるしかないっ!!)
ユノの瞳に再び灯がともった。
椿に見付からないようにユノは剣に巻き付く鎖をほどいた。何も知らずに椿は相変わらずサンに向かって指示を出していた。
「さっさと殺れよ。早く帰りたい…ってゆーかチンタラやってっとテメェから殺るぞ!」
「だってー僕たち案外戦闘能力の相性悪いんですもの…。僕の物質(炎)が物体なんかに負けないとは思ってたんですけどぉ…それに二人共柔軟なんだもん」
椿とサンが言い合っている。椿の注意が完全にサンの方を向いた。今がチャンスだと思った。一瞬の出来事だった。事態に気付いたサンは叫んだ。
「椿さんっ!!」
今度は逃げられないようにとユノの剣の鎖が椿の細い首から体に及ぶまで巻き付いていた。それを思いっ切りたぐい寄せると、椿の体は前のめりになり、それを見計らってユノは剣を振り被った。じぃちゃんも邪魔されないようにとサンを押さえ込んだ。しかし僅かな隙間から技を放たれた。
「ヒートッ!」
サンが叫ぶ。今度は熱の塊だった。それがユノと椿の体を繋ぐ鎖にまとわりついた。構わずユノは剣を降り下ろす…降り下ろす…降り……。
そのとき!!鎖が熱で溶けて切れてしまった。椿は顔色一つ変えず、首もとをかっ切ろうと迫るユノの剣から自由になった体を後ろにそらして交した。降り下ろした剣の刃先には何の手応えもなかった。サンが慌てて椿の元へ駆け寄った。そしてじぃちゃんもユノの側へ。
「ユノ!!」
「じぃちゃん…私、じぃちゃんのブレッドを探したの。でも分からなくて…たぶん無かったと思う…」
「いいんじゃ…覚悟の上のことだ」
「カクゴ…?」
サングラスの奥に、じぃちゃんの目が優しく笑っているように見えた。でもユノにはじぃちゃんが言っていることが分からなかった。「それより、椿…あの女の方と戦うとき…血を見せては行けない。アイツは血を用いて印を結び、人を操るんじゃ。操る本人の血を使って。。。」
「…分かった。」