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〜吟遊詩〜
【ファンタジー その他小説】

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〜吟遊詩(第1部†序言・運命†)〜-6

じぃちゃんはそれが鼻先をかすめる寸前で、持っていたナイフをサックにひっかけて止めた。金属同士が激しくぶつかり、小さな火花が散った。
「さすがに速いですね…僕も速さには自信があったのですか…」
「まぁーねーん。熱いけど…」
自分の拳がとめられたにも関わらずサンは楽しそうだった。力のままに押してくるサンの拳をじぃちゃんがナイフを振り切って弾くとサンは反動でバランスを崩して倒れかけた。
「わぁっ!!」
サンが声を挙げた。…が、しかし。
「なんちゃって♪」
サンは弾かれた手を地に着くと足を思いっきり蹴り上げた。それはじぃちゃんの頬にキレイに命中し、じぃちゃんと…サングラスにナイフも吹っ飛ばした。
(なんて柔軟なんじゃ…ブレッドが足りないせいで動きが鈍っているとはいえ…)
じぃちゃんが切れた頬から流れる血を拭い、サングラスを拾ったとき……━━
『━━!?━━』
ユノが雄叫びを挙げて剣を振り切ったところが頭をよぎった。
「なんじゃ…?ユノ?」
じぃちゃんは立ち上がりユノの部屋の方を見上げた。サンはじぃちゃんが一瞬自分から目を離し隙を見せたことが面白くなかった。
「よそ見なんかしていいんですかぁ??」
サンが皮肉を言った。しかしじぃちゃんは動じずに言い放った。
「今までのはホンのお遊びじゃよ…」
口元には微かに笑みが浮かんでいた。サングラスをかけなおすじいちゃん。ハッタリではないのか?サンは戦いに飢えていたため、じぃちゃんの僅かな変化に気付かなかったのだ。ユノに何があったのか…じぃちゃんはスグに分かった。自分の体を流れるブレッドの勢いが物語っていた。
(何がまだこの戦いについてこれないじゃ…ユノは立派に成長していた。)
椿もまた何かを感じとっていた。
(何か変わった…じじぃのブレッドの力が強くなった気がする。ダルいな…━━)
椿はそっと目を閉じた。二人はまた戦いに興じていた。


━━ダーンっっ━━
ユノの部屋のドアが大きな音をたてて倒れた。
「やった…!!じぃちゃんの結界に勝っちゃったよ」
ユノはあれから剣に力を送り続け、とうとうドアを破ったのだ。
(ってゆーか何が起こってるの?)
ユノには色々考える事があったがじぃちゃんに会わないことには何も始まらない。剣を床に突き刺すと、ドアの隣にあるクローゼットを開けた。キャミソールだけだった肌に肩の開いた長めのセーターを纏った。白くて長い足に膝まであるブーツを履くと壊れたドアを踏みながら部屋を出た。剣は溶けるかのように形を変えてユノの手首にすがった。ユノが階段を駆け降りようと走り出す頃には剣はもとのブレスレッドに戻ってユノの手首に収まっていた。
多種のブレッドが売られているところを過ぎ、聖堂を駆け抜ける。大きなマリア像が冷たい目を向けてユノの姿を見下ろしていた。そこを抜けると上品に大理石でまとめられたメインフロントにつく。ユノの部屋がある所とは非なるものだ。信徒さん達が訪れる、いわゆる表の場所なのだ。そこにある白をモチーフにしたシックな螺旋階段。一気に駆け上がるとそこには長い廊下が広がる。信徒や旅人のために用意された部屋と並んでじぃちゃんの部屋があった。ユノは慌てるあまり勢い付きすぎ、《止まる》という一切の行為をドアに任せた。
「じぃちゃんっ!!」
ドアにぶつかりながらもユノは声を張り上げた。ノックをしながらノブに手を掛けると、ドアはユノが体重をかけていたままに勢いよく開いた。まさか開くはずがないと思っていたユノは思いっきり床におでこを擦ってしまった。
「痛っ…じいちゃん!庭で変な人たちが!!」
ユノはそぅ言いながら、じいちゃんがいるであろぅベッドの方を見上げた。ベッドの横でランプが耿々と光を放っていた。それだけだった……。後はなにもなかった…。もちろん、じぃちゃんも。…と、ユノは床についている手に何か違和感を感じた。
━ぬちゃっ…━
良く見るとそれはじぃちゃんが結んだ印の跡だった。
「血…!?」
ユノは指先に着いた赤い液体を見た。そして部屋に広がる印も…。ユノの頭の中で全てが結び付いた。そして再び長い廊下を走り出した。今度はさっき来た方に…そしてさっきよりも更に速く。
(あの血…あの印…私は知ってる…あれは…)
ユノは庭で戦っていた男を思い出した。
(あれはじぃちゃんだった…)
ユノが物心つくころにはじぃちゃんは年老いていた。だからあの若い青年を見てもピンと来るはずもなく…。ユノはあのブレッドが沢山ある部屋に来ていた。そびえたつ引き出しを見上げ、じぃちゃんと同じブレッドを探した。
(あんな術を使ったらブレッドは足りなくなるに決まっているのに…)
じぃちゃんのブレッドはなかった…。


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