スタートの時-3
そして…。
「菊ちゃん!お願い!」
「承知しました!貞ちゃん!」
目にも止まらぬ薙刀さばきでツブテを払い落としていくお菊ちゃん。
こんな場合だけど。
クスッ…お菊ちゃんと貞ちゃん。
いつの間にやらいいコンビ。
僕はメチャクチャ嬉しくなってきたよ。
こりゃ…何としても貞ちゃんを守んないとね。
よし!
「くらえ!シャイニング・アタッッック!」
おお…それっぽいって名を叫びながら、もう一度タックルだっ!
「う・お・お・おっ!」
ハッキリとした手応え。
大きく吹っ飛ぶサダニシュウジの黒い影。
地面に落ちた影。
「ぐ・はっ!」
どこが顔の表情とは判んないけど。
確かにうづくまってるし、効いたみたい。
シュウ…シュウ…。
と黒い靄みたいのその身体から立ち上って。
明らかにダメージを受けてるみたい。
「もう止めて…楽になりなよ!サダニさん!」
苦しげにしてるサダニシュウジの影を目の当たりにして。
僕は不意にやりきれないモノを感じちゃった。
「ぐ・ぐ・な…」
明らかに苦しみ、戸惑っているサダニシュウジの影。
「な・ん・な・ん・だ」
「心優しき人です!この方のような人もいるのですよ!」
薙刀を構えながら。
厳しくも、どこか優しく叫ぶお菊ちゃん。
「わ・か・ら・な・い……おごぉぉぉ!」
頭らしき部分を押さえ。
急に人間らしい呻き声を上げるサダニシュウジの影。
「だ…だいじょぶ!?」
攻撃するとかじゃなくて…。
ついつい普通に苦しむ人に駆け寄るみたいにサダニシュウジの影に駆け寄る僕。
「おまえ…」
サダニシュウジの声から…何だろう毒っ気が抜けてく。
友達になれるかも。
「もぅいいだろサダニさん、これ以上人を憎むのは止めなよ。自分が辛くなるだけだよ」
本気だよ。
もし…これで丸く収まるなら。
それに越した事はないよね。
「そうか…そうかもな」
どんどんと柔らかくなってくサダニさんの口調。
「そーだよ!憎しみを捨てれば、今にいい事あるって」
つい僕も笑い声になって、最後には茶目っ気たっぷりのウインク。
「ははははっ…死霊である私に先の話とはな」
サダニさん…笑ってるの?
なんか…めでたし、めでたしかな?
「貞代…おまえにはすまぬ事をしたようだな」
人間らしい?響きを取り戻してゆくサダニさんの声。
そして黒い影だったその姿も微かに色彩を取り戻していっているみたい。
貞ちゃんや鵬蓮さんは依然、警戒は解いていないけど。
更なる攻撃を仕掛けるのは控えてる。