『縛られた女』-7
「1年ほど経って彼女が君のお父さんの海外勤務についていくことになって、僕たちは別れることになり、最後に会った日僕は彼女を縛って責め、それを絵に描いて彼女に渡した。
それが十数年前のことだ」
真由は、コクンとうなずいた。
「その後僕は大学を卒業して、中学校の美術教師になり、彼女との連絡は完全に途絶えた。
だから、別れて1年足らずのうちに、君が生まれたことは知らなかった。
僕も、教師になって数年後に結婚し、子どもも2人できた。
しかし何という偶然か、帰国して君が編入した中学校は僕の勤める学校で、しかも僕は君の担任になってしまった。
だから、書き置きにあったように、君が初めてこの中学校に登校してきたとき、付き添ってきた彼女と僕は、十数年ぶりに再会してしまったんだ。
とても驚いたけれど、そのときは、僕も彼女もさりげなく振る舞った。
心をざわつかせながらひと月ほどたったとき、彼女から会いたいと連絡があり、僕らは人目を避けて会った。
そのとき彼女は、以前と同じ関係になってほしいと僕に頼んだ。
しかし僕は、それを断った」
そういって、佐々木は一瞬目を伏せた。
「その理由として先生がいわれたことに、ママは衝撃を受けたんですね?」
真由が、初めて口をはさんだ。
「そうだ。たぶん君にも、衝撃的なことかもしれない。
でも僕はそれを、きちんと君にいわなければいけない
だから、びっくりするだろうけど、聞いてくれるね?」
「はい」
佐々木の言葉に、真由は大きくうなずいた。
「僕が君のお母さんの申し出を断る理由としてあげたのは…、
君が僕の、子どもなのかもしれないということだ。
彼女とセックスをするとき、僕は必ず避妊の備えをするようにしていた。
しかし、これで別れるとなったあの日だけは…
あの絵をかいた時だけは…
彼女もそれを望んだし、僕もそうしたかったから…
それをしなかった。
再会後もしやと思った僕は、生年月日を確かめて、君が僕の子どもである可能性は十分あることを知った。
だから、その可能性がある限り、申し出を受けることはできないと断ったんだ。
しかし彼女は、そういう可能性をまったく考えていなかったようで、たいへんな衝撃を受けたようだ。
それで、たぶん専門の機関に頼んで、DNAでの判定をしてもらったんだろうけど、書き置きに書いてあったように、君は僕の子どもではないということがわかった。
だから、君は間違いなく君のお父さんと彼女の子どもなんだ」