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凪いだ海に落とした魔法は
【その他 官能小説】

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凪いだ海に落とした魔法は 3話-35

「要はあれだろ。カッコ悪い言い方をするなら、運命的なものを感じたってやつ」と僕は言った。
「何それ。人を頭の悪い女みたいに言わないで。ただ、こいつは利用できそうだなって思っただけだよ。運命とか、バカじゃない」

直線的な眉を不愉快そうに歪めて日下部は毒吐いた。爽やかな潮風が彼女を宥めるように撫でていく。取り繕うような澄まし顔を作り、言葉を続ける。

「でもまあ、私がシノたちと関わることで“楽しい”っていう感情を知ることができたなら、後付けでそれを“運命だった”って言ってやってもいいよ」
「ああ、いいね。それは。日下部沙耶の運命的な出会いの一幕に出演できるなんて、うん。何ていうか、光栄だ」
「あなたって、見た目と違って皮肉屋なのね」

嫌味ではなく本心から出た言葉なのだが、日下部はそうは受け取らなかった。

「沢崎のが移ったのかもしれない。気を付けないと」
「そうね。気を付けなさい」

そして訪れた温かな沈黙に浸かりながら、二人はフリスビーを投げ続けた。義務のように、あるいは儀式のように肅々と。

「日下部」
「なに?」
「これ、楽しいか?」
「全然。そう思おうと努力はしてるけど、もうやめたくなってきた自分から言い出したことだから続けてるけどさ」
「そう。僕は割りと楽しいよ」
「単純だね。きっと砂粒数えてたって楽しいんだよ、シノは。羨ましい」
「そんなまさか」

時の甘い流れに引き摺られ、徐々に色を損なっていく七月の空がそこにあった。
その下には、憂愁を誘うモノクロ的な灰色に包まれた小さな入り江があった。
穏やかな寝息のようにそっと打ち寄せては引いていくさざ波があって、不器用な誰かが造ったミニチュアめいた空間がある。
その中で言葉を忘れた僕たちは、アミニズムを盲信する原住民よろしく淡々とフリスビーを投げ続ける。
何処までも排他的な夏の隅っこに引っ掛かっている二人だった。




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