アイカタ―――前編-13
「―――漫才、やりたいねん」
ずっと言わなアカンと思ってた。
でも、言うたら安全牌を失うてしまうから、俺はこんな大事なことを一番伝えるべき真弓に言えずにいたんや。
最低やろ。コレまじで。
「それって………シーナと………なん?」
真弓は、まるで怖い話の結末を聞くように、片手で口を覆って眉をひそめている。
「いや………わからへん。あいつ医者になる言うてるし……でも、相方は……俺ん中であいつしかおれへんし……真弓と別れて、今度のコンクール優勝したら、改めて言うつもりや――――」
俺がそう答えた途端、真弓は汚いものでも見るような険しい目つきで俺を睨み付けた。
「やっぱり……そうやったんや……」
「………え?」
「……変態……」
「―――は?」
「前から……オカシイとは思っててん」
「真弓……お前……何か勘違いしてへん?」
「……好きなんやろ?シーナのこと……」
「えっ……そら……好きやけど……いや、違うで!お前が思てるような………」
「うちと……やってる時も……いっつも……シーナのこと想像してたん?」
「は?……んなワケないやろ?ちょ……落ち着けや」
「……いやっ……いやぁっ!!」
悲鳴と共に俺の顔めがけていきなりガトーショコラが飛んできた。
茶色いスポンジが頭に当たってバラバラと砕け散る。
「わっ!……ちょ……ちょー待てぇっ!」
それは違う!誤解や!
そう言おうとした時には、真弓は血相を変えて立ち上がっていた。
あっという間に机の上にあった一万円札をポケットに突っ込んで、足早に入口へと向かう。
「ちょ、待てって!真弓っ!」
俺も思わずその場に立ち上がったが、真弓は俺の呼び掛けを無視してさっさと外へ出て行ってしまった。
「―――真弓っ…………」
追い掛けたいという衝動を、俺は必死で抑えた。
今追い掛けたら、真弓と離れられへんようになる。
ほんまは、別れたくなんかないねんから。
――――これでよかったんや。
ふと我に返ると、店内の客が全員こっちを見ていた。
「―――コーヒーのおかわり、いかがでしょうかぁ?」
背後から突然話し掛けられ驚いて振り向くと、さっきのウェイトレスが、サーバーを手ににこやかに立っていた。
――――to be continued