異界幻想ゼヴ・ラショルト-9
「クゥエルダイドがお前に絡み始めた時点であの子、こっちに鍋持って歩き始めてたぞ。いい友達じゃないか」
ジュリアスが、笑いながら教えてくれた。
「あーみんな、騒いで悪かったな。食事に戻ってくれ」
ティトーが号令をかけると、周囲の男達は何事もなかったかのように食事を再開した。
「やれやれ……」
席に戻りながら、ティトーは首をこきこきいわせる。
「今日は撃退できたけど、逆恨みが恐いなあ」
「なんだか……ごめんなさい」
縮こまるフラウに、深花は笑みを浮かべて見せる。
「仲間が傷つけられてしまったから怒る。当然の事です」
「だな」
ジュリアスが、くすりと笑った。
「俺達が深花を守るように、深花がお前を守った。まだまだ軍人らしい行動が板についてないくせに、よくクゥエルダイドに抗したと思うぞ」
わしわし頭を撫でてから、ジュリアスはふと考え込む。
「俺がこうするのも、もしかして嫌か?」
問われた深花は、首を横に振る。
クゥエルダイドの行為が嫌なのは、自分がそれに同意していないからだ。
同意してのものならば、頭を撫でるのだろうと抱かれるのだろうとどんとこいという所である。
「そうか」
かすかに笑ったジュリアスは、猛然と夕食を平らげ始めた。
「あいつのせいでイライラするから、思いっ切りしごいてやる。覚悟して挑んでこいよ」
「……望む所よ」
精一杯不敵な笑みを浮かべると、深花もお代わりのスープを片付け始める。
「……あたしも参加していいかしら?」
フラウの声に、深花は頷いた。
「もちろんです」
「となると、俺だけサボるわけにゃいかないな」
ティトーが言うと、ジュリアスが笑う。
「じゃあ、夜の部開始ってとこだな。早くメシを平らげるぞ」
苛立ち紛れに、クゥエルダイドはたまたま足元にあった切り株を蹴りつけた。
意外と根っこの部分が頑丈で、爪先が痛くなるだけに終わる。
「くそっ!くそっ!くそっ!」
痛みと欲求不満が混ざり合い、彼の心境は最悪だった。
非力で従順そうに見える外見のくせに、意外と強情な女だ。
頭の中は深花の事……正確には、深花の肉体の事で一杯である。
骨の存在を忘れさせるくらいに柔らかく滑らかで、みずみずしい肉体。
女特有の甘い体臭も自分を嫌がる声も、必死の抵抗すら男を誘っているとしか思えない。
愛だの恋だの、甘ったるい事は言わない。
ただあの体をめちゃくちゃにし、よがり狂わせてみたいだけなのだ。
それに……顔面にスープを叩きつけられ、恥をかかされた復讐もある。
あの女を抱き、自ら男を欲しがるまでに虜にしてやれば……面白い事になりそうだ。
後ろから深花を抱いて守ろうとしていたジュリアスの顔を思い出し、クゥエルダイドはくつくつ笑う。
あの男には、お楽しみの最中に気絶させられた恨みがある。
「女を寝取ってやったら、さぞかし楽しいツラが拝めるんだろうなぁ……」
「その話、一枚噛ませてもらおうか」
聞き慣れた声が、後ろから聞こえた。
「……伍長か」
少し離れた所から、アパイアがぬっと姿を現した。
「あんたが俺に組するメリットが思いつかないんだがな」
クゥエルダイドが素っ気なく言うと、アパイアは低く笑った。
「お前が飽きたらあの女を譲り渡してくれるだけでいい。そういう楽しみを捨て切れない年のくせに、一からあれこれするのは面倒でな。お前がヤりまくっておとなしくなった女なら、扱いもたやすいだろう」
「……なるほどな」
つまり、楽して美味しいとこ取りをアパイアは狙っているのだ。