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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ラショルト-8

「おい曹長、お前特定の相手はいないんだろ?だったら俺が狙った所で全く問題はないわけだ」
「ちょっ……!?」
 あんまりな言い草に、深花は思わず声を上げた。
 正面を向いたら唇を奪われかねないので、横目でクゥエルダイドを見る。
 欲望を露にしたその顔を見て、深花は理解した。
 クゥエルダイドの言う『特定の相手』とは恋愛関係ではなく、肉体関係を指しているのだと。
「いい加減にしろ」
 ぐい、と背後から腕が伸びてきて深花を抱き寄せた。
「てめえの性欲ぐらいてめえでケリつけやがれ」
「ほう」
 クゥエルダイドの眉が、ぴくぴくと面白くなさそうに震える。
「どうせてめえも神機搭乗後のアフターケアなんつう名目で、ヤりまくってんだろ?だったら俺がヤッたって大差ねえだろが」
「大有りだよ、クゥエルダイド」
 ティトーが腰を上げ、クゥエルダイドと深花の間に立ち塞がる。
「少なくとも俺達は、そんな下卑た思考は持ち合わせちゃいない。そういう馬鹿を言い出す前に、鏡見て出直しな」
「……そんなに相手が欲しいなら、あたしが相手してあげるわよ」
 ぼそりと、フラウが言った。
「あなたが経験した事のない夢見心地をとっくり味わわせてあげる。だから、深花に執着するのは止めてちょうだい」
 それを聞いたクゥエルダイドは、小さく鼻を鳴らした。
「うるせえな……てめえなんぞ買えるか、この男女!」
 侮蔑の言葉に、深花は声を押し殺した。
 傷つけられてうつむくフラウを見て、腹の底から怒りが沸き上がる。
 三人とも、自分を守ろうとしてくれているだけなのに。
「……いいわよ」
 ジュリアスの腕を振りほどき、深花は立ち上がった。
「ほう!?なかなか物分かりがいいじゃねえか!」
 ティトーの脇をすり抜け、クゥエルダイドの前に立つ。
「それじゃあさっそ……」
 肩に腕でも回そうとしたらしいクゥエルダイドの顔に、深花は自分の平らげていた夕食のトレイからスープ皿を引っ掴み、中身を浴びせていた。
「この恥知らず!!」
 ざわついていた食堂内が、深花の声で一気に静まり返る。
「あなたは、私の仲間を侮辱した!この程度で済んで幸運だったと思う事ね!」
 鼻息荒く怒っている深花の肩を、ティトーがぽんと叩く。
「駄目じゃないか深花」
 ティトーは、優しく深花を叱った。
「君のスープじゃ冷めててダメージが少ないだろう。俺かジュリアスのスープなら熱いから、今のはすごく効果的だったんだぞ?」
 違う意味で叱られ、深花はしゅんとした。
「次回から気をつけます……」
「何なら今からやり直してもいいぞ」
 ジュリアスが、スープを滴らせるクゥエルダイドの顔を見て失笑した。
「実に素敵な男ぶりだなぁおい」
 思わぬ反撃に遭って呆然としていたクゥエルダイドは、ようやく我に返った。
「てめっ……!」
 即座に食ってかかろうとしたが、フラウを傷つけられて怒る三人の迫力に劣勢を悟る。
「……覚えてやがれっ」
 捨て台詞を吐くと、クゥエルダイドはそそくさとその場を後にした。
「あんにゃろう、命拾いしたな」
 ジュリアスが笑って、厨房側の通路を示した。
「ん?」
 つられて振り向いた深花は、おたまを口に咥えてスープの入った寸胴鍋を両手に抱えたティレットと視線が合う。
「ちょ、ティレット……」
「す、スープのお代わりのサービスですっ」
 おたまを鍋の蓋の上に置いたティレットはそう言うと、空になったスープ皿に鍋の中身を注ぎ足した。
「それじゃっ」
 寸胴鍋を抱えたまま、ティレットはよたよた歩いて厨房へ戻っていく。


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