異界幻想ゼヴ・ラショルト-5
今日はたまたま非番だったザッフェレルは、四人の訪問を受けてひどく驚いた風だった。
今日は門前町まで出歩いていたとの事で、帰ってきたばかりのザッフェレルを捕まえられたのは全くの僥倖という所である。
「本当に、そのような事が?いや、疑う理由はないが……」
兵士にあるまじき振る舞いに、ザッフェレルは唸る。
「ザッフェレル」
ティトーは親指で、ジュリアスを示した。
深花をいいように扱われ、憤慨して鼻息が荒い。
「嘘や冗談であいつがああなるか?」
「それはそうだな」
ものすごく説得力のある台詞に、ザッフェレルは思わず納得した。
ドアの開く音に、ジュリアスはそちらを見る。
ザッフェレル宅の風呂を借りてクゥエルダイドの痕跡を洗い落とした深花が、そこにいた。
さすがに服はそのままだが、いくらかは気分転換ができたと思いたい。
「もう大丈夫か?」
声をかけると、深花は頷いた。
「ん。平気」
理不尽な暴力を受けた割に、ダメージはさほどでもなさそうだ。
最も、今は興奮状態でハイになっているだけで後でぶり返しがくる可能性は否定できず、二人は視線で注意を促し合う。
「大佐。お風呂を貸していただき、ありがとうございました」
深花が礼を言うと、ザッフェレルは目を和ませる。
「なに、構わぬよ」
先日の土神殿巡礼のための旅行許可といい今回の風呂貸しといい……親子ほどに年の離れた部下が、ザッフェレルは可愛くて仕方ないらしい。
「全く、神機チームと候補生の交流戦なんて寝言を言い出したのは誰だ!?」
全員が揃った所で、ジュリアスが苛立ちを隠せない声で唸る。
「吾輩はラザッシュ軍曹経由で聞いたが、立案はおそらくアパイア伍長であろう」
「アパイアか……」
ジュリアスの眉が、不快そうに歪んだ。
「今度こそは我慢ならねえ!っとに、ろくな事をしねえ奴だ!」
「今度『こそ』?」
以前にも何かあったのかと思い、深花は驚く。
「俺が入隊した時の話だ。俺は新入りの二等兵で、新兵訓練はラザッシュとアパイアが担当だったんだ。黒星の事でいちゃもんをつけられて、俺達の仲は最悪だった。で、ある日……近接格闘の教練の時にアパイアの野郎、目をつけた男に遠征先でケツを差し出せって交渉したらしくてな。いい返事がもらえなかったからか、そいつの事をいの一番にぶちのめしやがった……その時の傷が元で、そいつはそのまま軍を辞めたよ」
忌ま忌ましい思い出を、ジュリアスは語る。
「……え、あれ?」
引っ掛かる疑問に、深花は声を上げた。
「アパイア伍長って、男の人……よね?」
それを聞いたティトーが、くくっと笑う。
「もちろん。俺の見立てじゃ、間違いなく生粋の女好きだ」
「それじゃあどうして……」
男の尻を狙うのかと言葉を続けようとしたが、深花は慌てて口をつぐんだ。
いくら何でもその質問は、退役した件の人に対して失礼すぎる。
「そこは軍部の古い伝統が関与していてな」
不快な話題なのか、ザッフェレルの声は苦かった。
「ホーヴェリア・ゼパムとして統一される前、遠征先で女を確保できなかった場合は自分で何とかするか互いの尻を借り合うのが常でな。伍長はその者を支配下に置いて、好きに尻を使う気だったらしい」
元々下士官のザッフェレルは、アパイアの事をよく知っている。