異界幻想ゼヴ・ラショルト-3
「やなとこに目ぇつけて……ああぁ」
目の前でジュリアスが意気消沈してしまい、ラザッシュは肩透かしを食わされる。
見事に深花の木刀を奪ったクゥエルダイドは、即座に深花へ組み付いた。
「……!」
黙って成り行きを見ていたティトーの表情が、僅かに変化する。
クゥエルダイドが木刀を捨てた……その意味が分からない。
深花を下すためなら、そのまま木刀で降参するまで殴り付けてやればいいだけの話だ。
深花が逃げないように背後から組み付いたクゥエルダイドは、彼女の耳元に何事かを囁いている。
囁かれた深花は首を横に振るが……その表情は、まるで男に抱かれている時のものだ。
ぐい、とクゥエルダイドが体勢を変える。
深花の表情がますます妖しくなり、ティトーはとうとう見ていられなくなった。
舌打ちを一つして、一歩を踏み出す。
「おっと」
先ほどまで対戦していた伍長が、ティトーの進路を阻んだ。
「降参のサインが出るまで手出し無用の約定、忘れたとは言わせないですぞ中尉殿」
「……!」
にやにや笑う伍長を制する自信はないティトーは、歩みを止める。
フラウは医局へ針を届けに行ってしまったし、ジュリアスは軍曹と再び怒鳴り合っているので手を借りられない。
ジュリアスの元へ行こうにも、伍長が行く手を阻んでくる。
このまま、歯噛みしつつ眺めているしかないのだ……通常であれば。
「うっ……ぁう……!」
耳元で、クゥエルダイドが野卑な笑い声を立てる。
「ずいぶんいい声で鳴きやがるなぁ……そら、もっと聞かせてくれよ」
クゥエルダイドの舌先が、耳の縁をなぞった。
「やっ……!」
技をかけ続けるふりをして、無骨な指先は体のあちこちを這い回る。
みずみずしい張りのある滑らかな肌は、クゥエルダイドをいたく満足させていた。
「ん〜、いい顔だぁ。堪んねぇぜぇ……」
痛みと不快で歪んでいる深花の顔へ、クゥエルダイドは舌を伸ばす。
ぺちゃ、と舌先は頬へ着地した。
「ぁうう……!」
乾いた汗で張り付いた土埃と共に、若々しい弾力に富んだ肌を舐め上げる。
「くっ……!」
「へへ……いい味してるなぁ。美味いぜぇお前の体はぁ」
せめて唇は避けようとしているのか、深花は必死で反対側を向いた。
「なんだ……キスも味わわせてくれよぉ」
ねちっこい声で囁きつつ、今度は首筋へ狙いを定める。
うなじからまるごとかぶりつけば女の甘い体臭と柔肌と嫌悪を表明するくせになまめかしい声が堪能でき、クゥエルダイドはほくそ笑んだ。
彼自身、最初はこんな事をする気はなかった。
しかし、作戦変更がはまって深花が木刀を落とした時……気づいたのだ。
目の前にいるのは若くみずみずしい、非力な女であると。
現在の彼は恋人もおらず、人に言えない欲求の解消はもっぱら門前町でひっそり営業するいかがわしい宿屋に通う事で済ませている。
しかし、候補生の給料では最底辺の娼婦くらいしか買えない。
一日に何人も客をとる彼女らの体ときたら、そりゃもうひどいものだ。
髪はばさばさ肌はボロボロ、ろくに風呂も入らないのでつんとくる体臭を振り撒くうえに下手をすると性病を移される。
しかし、目の前の女は次元が違う。
程よく引き締まった肉体はみずみずしく清潔感に満ち溢れ、手を集中的に打ったのでしばらくは痺れて抵抗するにも難儀な状態。
ならば組み付いてしばらく肉体を楽しんでやろうと、クゥエルダイドは決めたのだ。