投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

異界幻想の最初へ 異界幻想 130 異界幻想 132 異界幻想の最後へ

異界幻想ゼヴ・ラショルト-2

「あらいけない」
 フラウは気を取り直し、木刀を打ち合うティトーとアパイアの方へ意識を向けた。
 針を投げ付けてくる犯人はよほど身元を掴まれたくないらしく、一度襲撃した後はこちらが追跡不能なくらいに素早く逃げるので、二度三度と連続して襲ってくる事はない。
 つまり、今の襲撃を乗り切ったからしばらくは深花の身辺にあまり気をつけなくていい。
 ぎゃあぎゃあ喚き合うジュリアスとラザッシュは放っておき、二人は試合を観戦した。
 試合は、からくもティトーの勝利である。
 ジュリアスほどではないものの十分な剣の使い手ではあるが、痩せぎすで体力に乏しいティトーと筋骨隆々としたパワー・スタミナ共に申し分のない伍長が対戦相手では力でごり押しされれば苦戦は必至、という事だ。
「では次!」
 未だにラザッシュがジュリアスと怒鳴り合っているため、上等兵が代わりに声を張り上げる。
「はいっ!」
 飛び上がるようにして、深花は前に出た。
「じゃあ、俺が出るか」
 のっそりと、男が前に出てくる。
 年はまあ、二十歳前くらいか。
 オレンジ色の髪に濃い緑色の瞳、中背だがいかにも頑健そうな体格。
 割と整った顔立ちだが、その表情は粗野で下卑た雰囲気が張り付いていて深花としてはあまり親しみが持てない。
 もしもあっちの世界にいたら、間違いなく不良とかチンピラとかろくでもない呼称が付けられる類な人間の匂いが、ぷんぷんする。
「神機パイロット候補生、クゥエルダイドだ。よろしくな、曹長」
 担いだ木刀を自分の肩の辺りで上下させながら、青年はそう名乗った。
「では、始め!」
 上等兵の声を合図に、二人は木刀を構えた。
「ほう」
 意外と隙のない深花の構えに、クゥエルダイドは感心した声を上げる。
「いい師匠がついてるじゃねえか」
「お褒めにあずかって恐縮ですわ」
 蛇が獲物を見定めているような気色の悪い視線を感じ、深花は身震いした。
 勝つにしろ負けるにしろ、短期で決着をつけた方が身のためだと全身が脳に警告を送ってくる。
「そりゃあ褒めるさぁ」
 クゥエルダイドは、くつくつ笑った。
「女にしちゃあ、立派な構えだ」
 口調に、どろりとした嫌なものが滲む。
「あくまでも、女にしちゃあな!」
 その言葉を皮切りに、クゥエルダイドは間合いを詰めた。
 片手で軽々と木刀を振るい、深花の構えた木刀に打ち合わせる。
「っ……!」
 小さく声を漏らし、深花は必死で攻撃を防いだ。
「ハッ!女にしちゃあいい太刀筋だ!」
 クゥエルダイドは鼻で笑い、猛撃を繰り返す。
 打ち込まれる一撃を捌き続けるうち、深花は気がついた。
 クゥエルダイドの攻撃は、軽い。
 当たれば対戦相手を屠るのに十分な威力ではあるのだが、ジュリアスのそれと比べると明らかに力不足なのだ。
 剣の振り方も体の捌きも、まだ未熟。
 未熟者同士、いい試合ができそうである。
「てんめっ……!」
 深花が意外と使える相手だと気づいたクゥエルダイドは、歯ぎしりして作戦を練り直す。
 筋力では明らかに自分より劣る女が必死の表情で自分の攻撃を捌き続けているのだから、面白いはずがない。
「……へっ!」
 小さく鼻で笑うと、クゥエルダイドは狙いを変えた。
「っきゃ!」
「しまった!」
 延々と喚き合っていても常に意識の一部を深花に向けていたジュリアスは、クゥエルダイドの目論みへ即座に気づいた。
 打ち合いなら引けをとらない深花も、武器を奪われたらおしまいである。
 純粋な力比べに持ち込まれた場合はどう見てもクゥエルダイドが有利なうえ、深花は徒手空拳がまだ苦手なのだ。
 そしてクゥエルダイドは木刀を落とさせるべく、深花の手を集中的に狙い始めていた。
 神機チームとパイロット候補生の交流戦という口実を設けられている以上、ジュリアスは黙って見ているしかない。


異界幻想の最初へ 異界幻想 130 異界幻想 132 異界幻想の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前