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『快楽と縄』
【SM 官能小説】

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『快楽と縄』-6

5.ジイサンの置き土産その1

 アイツが現れてから1年半ほどの歳月が経ったある日、とんでもないことが起きた。
 
 その日も、アタシはアイツに快楽人形にされ、ジイサンに散々嬲られたあげくこの上なく屈辱的で恥ずかしいセリフをいわされた上での仕上げのクンニで、やっとイクことができた。
 でもそのすぐ後、ジイサンは身体を突然ぐらぐらと揺らし、アタシにもたれこむように上体を覆いかぶせてきた。

「キャッ!アワワ…!」
 アタシは、ジイサンの顔が覆いかぶさって乗っかってきたお腹が、何かヌメッとしたもので濡れるのを感じながら叫んだ。
 そのヌメッとしたものは、ジイサンの涎とアタシがアソコから出したお汁が混ざったものだった。

 それこそ間髪を入れずというタイミングで、アイツがすっ飛んで部屋に入ってきた。
 そして、ジイサンにまだ息があるのを素早く確認すると、すぐにポケットから携帯電話を取り出して救急車を呼んだ。
 それから、サッとアタシの縄を解き、ジイサンの顔と上体をそっと持ち上げておいて、顎で指し示してアタシに退くように促した。
 アタシが慌ててそれに従うと、そのままジイサンの顔と上体をそっとベッドに下した。

「こ、この人、どうしたの?」
 アタシが、真っ裸のままブルブル震えながら問うと、アイツは
「たぶん脳出血だ。すぐに救急車が来るから、早く服を着て!」
といいながら、縄をいつものように見事な手際で束にし、いつももってきているバッグにしまいこんだ。

 しばらくして救急車が来るとアイツは救急隊員にテキパキと説明し、ジイサンが運び出されるときにはついていった。
 アタシも後に続こうとすると、アイツは振り返って首を振り
「後で、電話するから…」
とだけいった。
 
結局ジイサンは、意識不明のまま病院のICUに入り、その2日後に亡くなった。
 アイツからは、
当日に「ICUに入った。一両日のうちらしい」、
   亡くなった日に「○時○分に亡くなった」
と、素っ気なく短い連絡が電話であった。

 心の底からジイサンの容体を心配し、亡くなったと聞いて悲しみに包まれ、とめどもなく涙を流して泣いたアタシは、
(いくらなんでも、素っ気なさすぎるんじゃない!)
 と、アイツがまた一層憎たらしくなった。
 しかし1週間後、アイツは突然アタシのマンションにやってきた。

「実は生前にあの方に、あんたへの置き土産を、2つ預かっていてね」
 インターフォンで応対するとそういったので、アタシはアイツを中へ招じ入れた。

「一つはあんたへの、伝言だ」
 あたしがコーヒーを淹れて出すと、アイツは一口飲んでからいった。
「『夢を叶えてくれてどうもありがとうと、いってくれ』とのことだった」
 それを聞いてアタシは、嬉しくなっていった。

「アタシが愛人になったことをそんなに感謝していてくれたなんて、感激だわ」
「いや、それは、ちょっと違うな」
「えっ、それ、どういうこと?」
「あの方はな、愛人の腹を枕にして腹上死するのが夢だったんだ。だから、望み通りに夢が叶ったときにだけ、置き土産をあんたに届けてくれといっていた」
 そう聞いてアタシは、嬉しさがスーッと引いていった。
 だって、そうでしょう?
 腹上死用の相手として愛人に選んでもらえたからって、喜ぶ女なんている訳ないわよ。



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