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『快楽と縄』
【SM 官能小説】

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『快楽と縄』-5

4.取引

 当然のことだが、アイツが去った後、アタシはジイサンに文句をいった。

「ねえ、何なの?あの男?」
「ウヒヒ…、すごい男じゃろう?
 噂には聞いていたが、これほどまでとは思わなんだ。
 あっというまに、お前を快楽人形にしおったのぉ」

「何いってるの!冗談じゃないわよ。
 あの男がまた来るのなら、アタシ、旦那様と別れるからね」
「おおっ、怒っておるのか?
 どうしてかのう?
 あの男のおかげで、お前もこれまで味わったこともないイイ気持を味わったはずじゃがのう・・・」

 (何いってるの?冗談じゃないわ!だからこそ、口惜しいんじゃないの?)
と思ったが、そんなことこのジイサンにいっても、通じそうにない。

「いったい何者なのよ。あの男?」
「ウヒヒ…、気になるかな?」
「そんなんじないわよ。何だか気味が悪い男だったから、正体を知りたいだけよ」

「ふむ、ふむ、そうか。
 あの男はジョージヤじゃよ」
「何?そのジョウジヤって?」
「ナワゴトヤとも読めるな。こう書くんじゃ」
 ジイサンは手近にあった紙に、「縄事屋」と書いてアタシに見せた。

「なっ?漢字で書けばわかるじゃろう?
 あの男は女を縄で縛って快楽人形にするのを、商売にしている男なんじゃよ」
「…」
「そういう商売をしている男がいると聞いて伝手をたどって連絡してみたら、なんとこれがまあ以前ちょっと面倒をみたことがある男でなぁ。お前を快楽人形にしてほしいと頼んだら、世話になった義理があるからとタダで引き受けてくれたよ」

 そう聞いて、アタシはもう、怒り心頭に達してしまった。

(冗談じゃないわ!ふざけないでよ!そんなアタシをタダで取引するみたいなこと、絶対に許せないわ!)

「どうするの?その縄事屋とかのあの男がこれからも来るのなら、もう別れるしかないわよ」
「それは困るのう。あの男のおかげでわしは初めて、お前を心行くまで楽しめたんじゃから…、なあ、それなりのことをするから、お前も考え直してもらえんかのう?」

「イヤよ。このマンションをアタシのものにしてくれるとでもいうのでもなきゃ、あの男にあんなふうにされたりするの、絶対に我慢できないわ」
 こういえばジイサンは、アイツを使ってアタシを快楽人形にするのを諦めるだろうと思って、アタシはそういった。
 しかし全く意外だったが、ジイサンはニッコリうなずき
「わかった。そうする」
ときっぱりいった。
「えっ!」
 アタシは度肝を抜くほど驚き、信じられない思いだった。

「わしはなぁ、お前に惚れこんじょる。お前とのセックスに、それこそ命をかけとる。だから、お前とのセックスを最高に楽しむためならば、それくらいのことはする。
 近いうちに弁護士に手配させて、ここの所有をお前の名義にする。
 だから、あの男にああされることは、受け入れてくれ」
 そういってジイサンは、アタシの顔を、覗き込むように見た。

 ちょっと考えて、アタシは大きくうなずいた。
 了承することにしたのは、億ションに目がくらんだからではない。
 ジイサンがそれほどまでに、アタシを高く買ってくれているのが、嬉しかったからだ。
 タダでアタシが取引されるのは絶対我慢できないけど、アタシのプライドを満足させることをしてくれたから、不本意だけどそれを認めていいと思ったのだ。

 こうして決して本意ではなかったが、アタシはアイツに快楽人形にされることを、受け入れざるを得なくなってしまった。
 ジイサンはきちんと約束を守ってくれ、その後弁護士が訪れて諸手続きを進めていった。そしてほどなく、アタシが住む億ションは晴れてアタシのものになった。
 そういうわけでアタシは、いくら憎くてしょうがなくても、アイツが来るのを拒否することはできないのだ。




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