双星の魔導師-3
「…守れなかった…」
1時間ほどすると少年の唇が微かに動き、小さな呟きが聞こえた。
「なら、強くなればいい」
返事が返ってくると思ってなかった少年は声がした方に顔を向ける。
少年の目は陽炎と同じ金色に輝いていた。
「守りたいものがあるなら強くなりなよ」
「……もう、無いよ」
死んでしまったから、と再び女性に目を向けた。
「お前はまだ生きてるじゃないか。これから守らなければならないものの為に今から強くなっておけばいい。私はお前を強くしてやれるよ」
ベルリアの言葉に少年はピクリと反応する。
「少なくとも、その強力な魔力の使い方は仕込んであげられる」
「……その代わり?」
どうせ交換条件があるのだろう、と言う少年にベルリアはクスリと笑う。
「その魔力を定期的に提供してくれればいい」
これだけ強力な魔力だ。
40年の予定が半分に縮まるだろう。
「……わかった……」
少年は陽炎を消すと女性に手を触れる。
女性は輝く光の粒となって上空へと上がって行った。
しばらくそれを見送った少年はベルリアの元へ歩いて来た。
近くに来た少年の目は金色ではなく黒に変化していた。
「私はベルリア。魔法学校の学長だよ。お前の名前は?」
「アース」
それから2人……3人の生活が始まった。
天才というのはいるんだな、とベルリアが感心する程アースには魔法使いの才能があった。
ベルリアとリンは魔法陣が得意だったが、アースはどの分野の魔法もあっさりと習得していく。
しかも、長々と呪文が必要な魔法でさえ、簡単な動き1つで出来てしまう。
「だって必要ねぇじゃねぇか」
なんでそんな事が出来るのか、と聞いた時に返ってきたこの言葉は衝撃的だった。
アースは交換条件である魔力提供も真面目にしていた。
「…口移しとか聞いてねぇし…」
と、始めは嫌がっていたが意識するのも馬鹿らしくなったのか途中からは挨拶代わりにするようになった。
そして、アースが16歳になった時……
「騎士団に入ろうかと思う」
「はぁ?」
台所で料理を教えていたリンは間の抜けた声を出した。
男たるもの料理ぐらい完璧にこなさなければいけない、とリンに言われ指導を受けていたアースはジャガイモの皮を剥きながら理由を話す。