「Wing」-27
開戦より三週間が経過した。相手方の増援も一週間前に一度だけ来たが、それ以降別段変わった事も無く、慰霊碑に刻まれる兵士の名だけが増えていった。
「敵歩兵部隊、前線に展開！ 交戦します！」
この日も、朝から敵国の兵達が陣を敷いて迫って来た。
「弓矢隊、構え！」
弓をつがえ、狙いをつける兵士達。標的は砂埃を上げて前進して来る敵国兵。
誰かがもうもうと立ち込める砂塵の中、揺れる影を見つけた。
砂埃が治まると、影の主の姿を確認する事が出来た。
「な……！」
皆が皆、息を飲む。視認した物は数万の人間。おそらく、前回の増援の五倍程の数はある。言葉を失う面々。
「……仕方あるまい。これも戦だ……」
ようやく王が声を絞り出す。半ば諦めたような表情で。兵士達も沈んだ顔をしている。
「弓矢隊第一波、構えよ！ まだ諦めるには早いぞ！」
直ぐ様切り替え、令を発する。
「放て！」
心なしか、飛ぶ矢全てに勢いが無いような気がする。それでも敵前線までは届いている。が、一応当たりはするものの、相手の数が多過ぎて、殆ど効果が無いように思われた。
尚も止まらぬ帝国軍。
「逃げて生きようなどと思うな！ 愛しい者の為に武器を取れ！ この戦のために死んでいった友の為に戦え！ 他者の明日の為に、屍となりても立ち上がれ！」
自身剣を抜き、降りかざす王。その眼は奮起とも、諦観とも取れた。
「此処で食い止める！ 全弓矢隊、投石隊、構え！」
広がる荒野に存在するのは、無限にも見える侵略軍。低く響く敵兵の足音が、自分達の死地への歩みにさえ思えた。その死への行進曲がある地点を境に、一気にテンポを上げ、迫り寄る。
「一人たりとて我が国の土を踏ませるな！」
掛け声とともに、一斉に矢と石が放たれた。
戦況は一方的なものになった。
無慈悲なまでに圧倒的物量で攻め寄る大群。門は交戦開始してから僅か数分で破られ、雪崩込む敵兵を止めるので手一杯になる兵士達。肩を潰され、足を潰され、それでも立ち上がろうとする兵士に、情け容赦無く突き起てられる槍剣。血に濡れる死体。それらよりも紅く光る敵国の鎧兜。戦場は阿鼻叫喚の地獄と化した。
「突破された！ 敵軍は城に向かって進撃を開始！」
声のした方を見てみると、そこには敵軍勢に押し切られた味方の姿があった。
「奴等を城に近づけるな！」
王の叫びも虚しく、続々と進み行く帝国兵。