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「Wing」
【ファンタジー その他小説】

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「Wing」-12

止めに入ろうとした兵士を蹴り倒してしまった事で、それまではただ唖然として、見ているだけだった兵士達も遂にブチ切れ、レオンを八方から取り囲んだ。地が揺れるほどの怒号。その中で少年の声だけがはっきりと聞こえた。
「……邪魔だ……退け……」
その場の空気がレオンを中心に凍りつく。皆の動きが一瞬止まる。が、
「ふざけるなぁっ!!」
誰かが叫び、一斉にレオンに襲いかかった。人が群がる。夜の光に集まる羽虫のように。





呆然と立ち尽くす――言葉が出てこない――初めは何が起こっているのかわからなかった。彼の様子を見に来ただけだったから。
兵士達が鍛練場の中心に声を発しながら群がっていた。各々、剣を握り締め、槍を構えながら…………少しずつ兵の数と怒りの声が、少なく、小さくなっていってる。その数が半分ぐらいになった時、クレアは初めて何が起こっているのかがわかった。しかし、理解出来なかった。何故レオンが城兵と戦っているのかが――
相手に決して触れさせず、踊り続ける躯。流れるような動きに合わせて揺れる長い黒髪。でも前とは何か違う……彼が顔をこちらに向けた時、その違和感に気付いた――左目は元の碧い色をしていたが、右の瞳が深い緑色に輝いていた――また一人倒れる。この前は一撃で気絶させていたが、今回は最低五、六発は攻撃している。それも、腕や脚の関節を外し、骨を折り、再び立ち上がれないようにして……それでも背中の剣を抜く事はなかった。

止めなきゃ!
そう思った時には立っている兵士はもう数人しかいなかった。それでも尚、彼への攻撃を止めようとはしない。槍を突き出し、剣を振り下ろし、自らの拳で殴り掛かる。しかし、それらは掠ることもなく、空しく空を切るばかりだった。そして一人、また一人、無残な姿でゆっくりと崩れ落ちていく。




「やめてっ!!」
突然、耳を通して脳に伝わる大声。
「どうしたの! レオン!!」
辺りを見回すと男達が地に伏していた。目の前には息を切らせ、それでも汗の滲む手で剣を構える兵士。
左目を押さえる。燃えるように熱い…………
片膝をつき、そのまま手で倒れそうになる体を支える。彼女が駆け寄って来た。
「レオン? どうしたの? レオン!」
景色が霞む。ゆっくりと、ゆっくりと視界が暗くなっていく。駄目だ……抑えないと……


完全に眼を閉じ、動かなくなった。

「何なんだ? こいつは……」
何処かで聞いた事のある声だった。
「……カイザさん?」
「クレアちゃんか。何でこんな所にいるんだ?」
「カイザさんこそ……」
暫しの沈黙。
「とりあえずそれをしまって、一緒にレオンを運んでくれません?」
「あ、ああ……」
剣を鞘に納め、レオンの右側に立って肩に手をまわし抱える。
「何処に運ぶんだ?」
「私の部屋に。その後でここの皆を医務室に運びましょう」
「何だってそんなめんどくさいことを」
「こんな事があったのに、一緒に居させられないでしょ?」
「わかった……ってクレアちゃんの部屋って?」
「言ってませんでしたっけ? 私一応ここの王女やってるんです」
「えええぇっ!!!?」
ものすごく驚いている。驚き過ぎて腰を抜かすぐらい驚いている。
「ねえ、カイザさん。早く行きません?」
「はっ、はい!!了解シタデアリマス!!」
急にカタコトになる。まあ当然の事だが。





レオンを移動させた後、他の兵士や召使いに手伝ってもらって、負傷した男達を医務室まで運んだのだが。一番大変だったのが、あの大男。下手に動かせば体がバラバラになりそうな状態だったので、他の男達を先に運んで、それから皆で慎重に運ぶことにした。しかし、レオンが倒した兵は百人弱。大男が運ばれたのは、事が起きてから、約一時間後の事だった。
余談ではあるが、哀れなその男が、救出されてから四時間後、奇跡的に息を吹き返した――――――――――――――――――――――――――ことはどうでもいいので流しておこう。


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