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「Wing」
【ファンタジー その他小説】

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「Wing」-11

「お父様?」
「おお、来たか。先程はすまなかったな」
「いえ。そんなことより何の用ですか?」
また結婚の話かなぁ……
「先日から言っておった結婚の話の事だが……」
ほらきた……
「お父様、そのことは……」
言い返そうとした時、
「……リングルドには断っておいた」
そんな風に言われたから、後の言葉が続かなかった。
「……えっ?」
「レオンとか申したな。あの若者ならお前を任せてもよいかもな……」
顔が火を噴いた。自分でもまっ赤になってるのがわかる。
「あのえっとその、それはどっ、どういう事でしょうか!?」
「ははははは……この話はまた後日にしよう。ああ、アヤツなら今鍛練場にいるぞ。見に行ってやってはどうだ?」
「パパっ!!」
「はははははっ!もう下がってよいぞ」
「は、はいっ!失礼します!!」
真っ赤に染まった頬を両手で抑えながら急いで部屋を出る。早く冷めるようにと願いながら。

――光る汗、照り付ける太陽と青空の下、体を鍛える男達。普通ならそこそこ絵になる光景ではあるが、ここのは少し違う。飛び散る汗に混じる紅い液体。木の棒で突かれ、叩かれ、砕ける骨の音。何をどう鍛えているのかが判断することの出来ない程の怒声と悲鳴。地獄絵図一歩手前といった感じである。

「こちらにお着替え下さい」
目の前に服を差し出された。あの男達のと同じような薄いシャツと胸当て。想像はつくが一応聞いてみる。
「で……?」
「あちらに行ってもらいます」
「何故……?」
「王の御推奨です。一度お試しになってはどうか、と」
深々とため息をつく。
めんどくさい……嫌だと言ってもやらさせられるんだろうな……
「……俺の服を持って来てくれ……あっちの方が動きやすい……」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
そう言って歩いて行った。それから五分くらいで戻って来て、
「どうぞ」
と、服を手渡してくれる。
「どうも……」
自分の服に着替え、額のヘアバンドを巻き直すと、いかにも面倒臭そうな足取りで場の中心まで進んで行った。



「兄ちゃん。こんなとこに何しに来た? お散歩か?」
肩を掴まれたので振り返ると、二メートルはゆうに越してる大男が立っていた。なんだ? この馬鹿は……とりあえず無視しとくか……
「今すげえ暇なんだよなぁ。誰か相手してくれねえかな?」
「……」
「おいおい兄ちゃん、シカトか? つれねえなあ!」
そう言っていきなり腕を振り回してきた。相手にするのも疲れるし適当にかわしとくか……




そのまま糞男の、攻撃と呼べるかどうかわからないような攻撃をかわし続ける事数分、相手の方が疲れたらしく、膝に手をついて息を切らせていた。
「ハァハァ、卑怯だぞ……逃げてばかりで……」
「……」
「背中のご大層なそれは飾りか? かかってこいよ……」
誰が聞いてもわかる負け惜しみだった。
「何も言えないのか? こんな腰抜け、育てた親の顔が見てみたいぜ」
「……貴様……今の言葉……訂正しろ……」
初めて発した声はとても低く、冷たく、怒りを纏ったものだった。男は気押されながらも、
「聞こえなかったか? 腰抜けの親は腰抜けで臆病者だって言ってやったんだよ!」
と言い放った。
「……後悔……させてやるよ…………」
地の底から湧き出るような声。そして次の瞬間――男の体が宙に浮く。少年の左脚が男の顎を蹴り上げた。男の膝が地に着いた瞬間、今度は右脚で側頭部を蹴り払う。そのまま鳩尾に左拳を叩き込み、崩れ落ちそうになったところを胸倉を掴まえ引き起こした。
そこからは正に地獄だった。倒れる事も許されず、顔は原型を失くし、体中の関節は有らぬ方向を向いており、初めは発せられていた悲鳴も今は聞こえなくなって、壊れた人形のようにただ存在しているだけの状態。それでも少年の一方的な暴力が止むことはなかった――




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