1・霧-5
「ねえ、お兄ちゃん。変じゃない?」
「何がだ、フィア」
「・・・なんか目の前がもやもやしてるみたいなんだけど」
フィアが不安そうに見上げてくる。やっぱりお前も気付いてたか・・・
さっきの父ちゃんの注意が頭を過る。
でも、平気だ。まだあわてる程霧は深くない。
「怖いよぉ・・・お兄ちゃん」
「怖がりだなフィアは。前が見えないくらいどうって事ないさ。ここは庭みたいなもんだぞ、適当に歩いたって戻れるよ」
「そうじゃない。お化けが出るよぉ・・・」
俺とは違い、フィアはその噂を怖れていた。
本当にそんなものがこの世に存在する、なんて信じてるのか?しょうがない奴だ。
「怖いか、じゃあ戻ろうか。父ちゃん達の所に」
「分かるの?もうこんなに霧が濃くなっちゃってるよ」
「・・・え・・・っ?」
辺りを見回すと、一面に鼠色の膜が張られたみたいになっていて、何も見えなかった。
かろうじて足元が確認できるくらいで、フィアの顔もぼやけて見えている。
何でこんな短い時間で霧が濃くなるんだ。
初めて見るんだけど、危険な現象だったのか?何にも見えないぞ、これじゃ。
「お兄ちゃん・・・」
「大丈夫だ。こういう時は迂闊に歩き回らない方がいい、ちょっと休もう」
諭す様にフィアの頭を撫でて、その場に座った。
そうやって泣きそうな顔をするなよ。俺だって不安で仕方ないんだぞ。
何か目印になる様なものがあればいいんだけど、こんなに霧が密着してるんじゃ確認できない・・・か。
「そうだね、ちょうど疲れてきたし、ちょっと休まなくちゃね」
「ピクニックは休憩が楽しいからな。すぐにこんなのも晴れるさ、心配ない」
・・・あの噂、本当じゃないよな。
もし襲われたらどこに逃げたらいいか分かんないぞ。
お化けの姿もよく見えないだろうし・・・
考えれば考える程不安になっていく。
冗談じゃない、喰われてたまるか。俺はまだ焼いたパンを父ちゃんに認めさせて無いんだぞ。
絶対に生きてこの森から帰るんだ。だから、諦めない。
静かすぎる森の中が薄気味悪く感じる。
今何時だろ。時計忘れちゃったんだよな・・・・・
動けない焦りと必死に戦いながら、フィアの手を握った。
〜〜続く〜〜