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匂いフェチ
【女性向け 官能小説】

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匂いフェチ-2

「らり?ろっか旅行にれも行くろ?」
歯ブラシを口へ突っ込んだまま、広げた夕刊に目を落としたまま私は聞く。別に興味はなかったが、一つ屋根の下に暮らしていて日に一度も言葉を交わさないってのも、腹にイチモツ持ち合ってる仮面家族みたいでバツが悪い。
「いや、ほら、ラグビー部の森山にさ、明日同じような研修会で泊まり行くから貸してくれって言われて」
トクン と胸が鳴った。
「あ、そう」
私は新聞を閉じて洗面所に行って泡を吐き出しコップに注いだ水でうがいをして、濡れたバスタオルを新しいのと交換してトントントンと二階の自室に戻って内側から鍵をかける。
明かりをつけないまま、ベッドの上へドカリと倒れ込んだ。乾いてない髪でシーツが濡れてしまわぬよう、頭の下へバスタオルを突っ込む。
溜息を吐く。森山先輩・・
私は目を閉じ、彼の姿を思い起こした。ラグビーボールを持って駆ける浅黒い肌、太い眉毛。
私は兄のような『僕ラガーマンなんですよね』と公言して歩いてるような首太ボテボテの感じはまったくタイプじゃなくって、森山先輩のようなしっかりと引き締まっていて一見華奢そうに見えるんだけど、脱いだら凄いよ、ってタイプがタイプなのだ。
そう、何を隠そうその森山先輩ってのが、私の“オカズ”ナンバー2。
しかしナンバー1とナンバー2の間には、明確な開きと質の違いがあって、ファザコン剥き出しの私が恐らく本能的に性的欲求を抱いている伯父とは違い、森山先輩がナンバー2の地位を獲得したのにはちゃんとしたきっかけと理由がある。それはあのマヌケな兄がしでかした失敗から始まる。

森山先輩は、大学時代からの兄のクラブの先輩で、今でも兄と同じ社会人ラグビーのチームでプレイをしている。
ある日私が何気なく家の中を徘徊していると、洗濯機の前で母がブツブツ独り言を言ってるのに気付いて「どしたの?」と声をかけた。
「いや、お兄ちゃんがね、間違って別の人のユニフォームを持って帰ってるみたいなの。一緒に洗ってもいいとは思うんだけど、やっぱり他人様のものだから」
母には随所にそういう昔気質なところがある。兄の物でないその汚れたユニフォームを、母は洗濯機の淵へ引っ掛けたまま、その真意を確かめるために兄の部屋へと向かった。大きな声で兄の名を呼びながら、階段を上がっていくミセス昔気質。
洗濯機の淵に掛けられた、茶色い土を着けたモケットグリーンのユニフォーム。背中の部分には、ローマ字で“MORIYAMA”と名前が刻まれていて私の胸をときめかせた。
私は森山先輩を知っていた。いつか気がないのに母に誘われ夕食を外で食べることを条件に付いて行った兄の試合、もの凄いスピードで他のでっかい選手をごぼう抜きにしてピッチを駆け抜ける森山先輩の姿を見て、ストーンって感じで恋をした。
しなやかなボディーライン、流れる汗、控えめな笑顔。私は久しぶりにドキドキした。
ストーン。いやはや。Fall in Love を考えついた西洋人の感性ってホントにすごいと思う。日本歌謡よ、もっと創造的であれ。
憧れの森山先輩のユニフォーム。汗をたっぷりと染み着けたそれを、私は手に取りウットリと眺めた。母が二階の兄の部屋で問答をしていることを背中で確かめながら、私はそれに顔を埋めた。

森山先輩とベッドに入っているシーンを思い浮かべる。
たった一回、そうして彼の汗のニオイ、体臭を知っただけで、私は彼のことを、もの凄く緊密に感じるようになった。そんな風に、自分だけのヒミツの楽しみを発見するというのはとても幸福なことだと思うが、しかし成就することのない想いを胸に秘め、コンデンスさせていくというのは逆にしんどい部分もある。叶わない恋を唄った歌で“出逢わなければよかった”ってあの苦しみは、こんな不純な想いにかけて使っちゃ作った人に怒られるかも知れないけど、人知れずその実像に近いものへリーチをしてしまう行為、例えば匂いを嗅いじゃうとかストーキングしちゃうとか そういった、頭に焼き付ける部類の行為、またその記憶は、妄想を逞しくするには打ってつけでも、それと引き替えに、ますます自分の 闇を深く濃くすることになる。
私はクリをいじりながら、いつものように足をピンッと突っ張ってイッた。


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