イート・ミー!-10
「日出、いるか」
部室棟二階、一番隅の部屋。女子ラクロス部の部室であるらしいその扉には、女の子らしくマスコットやステッカーが貼りつけられている。
ちなみに同階には女子サッカーとソフトボール部があるらしい。ここへ来る途中、ソフト部の部員らしき女子に変な目で見られてしまった。
「はーい」
部室を開ける日出。鼻をつく、色々な香水が混じり合った匂い。
思わず俺が顔を顰めると、日出が苦笑した。
「あ、ごめんごめん。佐藤が来るっていったら、ちょっと皆張り切っちゃって」
言って口許を吊り上げ、日出は部室の奥を見やる。
「ばっか、ヒノ! それ口に出すの禁止!」
「つーかまだ化粧中!」
これから部活なのに化粧する意味はあるのだろうか。俺はそんなことを考えながら持ってきたキャンバスバッグを手渡した。
「ありがとー、助かる! 重かったでしょ」
俺は頷いて言う。
「部室に置いとけよ」
だよね、と日出は舌を出して言い、それからちらりと再度部室の奥を見やった。俺も僅かに覗く隙間から部室内を見る。さっき昇降口にいた髪の明るい女と、確かA組の髪の長い女が鏡と睨み合っていた。
花のようなオレンジのような、甘い香りが鼻孔を刺激する。頭がクラクラしそうだ。
「――部室が珍しい?」
「まあ、な」
日出に言われ、俺は部活に入っていないからと答えた。兄貴と同じく中学生までは空手をやっていたが、そんなに真剣になってやりたいものでもなく、今はすっかり辞めてしまった。
「じゃあさ」
彼女の声が少しだけ、低くなる。
「ちょっと覗いてかない?」
言い終わるより早く腕を日出に引かれ、俺は部室に入ってしまった。
おい、まずいだろ。
うろたえる俺に日出は部室の鍵をかけ、くすくすと笑う。
「佐藤くん、特にこれから用があるってわけでもないんでしょ?」
俺の肩に手を這わせ、茶髪のセミロングが傍らで言った。
「ちょっとだけ、楽しんでいかない?」
もうひとりの髪の長い方が、するりと俺の手から鞄を取る。
「楽しむ、って」
上擦った俺の声は、しかしそれを期待しているのがバレバレだった。
「決まってんじゃん、佐藤」
部室の真ん中に置かれたベンチに俺を押し倒した日出は、にっと白い歯を見せて笑った。
しかしいつものような快活な笑みではない。妖しくその双眸が光る。
「!」
不意に唇に柔らかい感触。二、三度角度を変えて唇を食んでから離れる。ぞくぞくするような笑みで日出は言う。
「ヤバ……佐藤、超キス上手い」
それはどうも、と俺はぶっきらぼうに言い、日出のポロシャツを捲り上げた。すると、つんと左右から肩を突かれる。
「あたし達にはくれないの?」
俺は苦笑し、髪の長い彼女の頭を掴んでその唇を食んだ。日出よりもずっと深く舌を絡めてやる。
「んっ……は、ふぅ……んんっ」
キスをしながら彼女は胸元を肌蹴させる。唇を離し、潤んだ瞳を見据えて再び軽くキスをする。彼女は既に上を脱いでいた日出達と同じくポロシャツを脱ぎ捨て、スカートの中に手を突っ込みながら言った。
「あ、やだ……キスだけで濡れてる」
「そりゃよかった」
俺は言って、もうひとりの彼女にもキスをした。
口づけながら明るいオレンジ色のブラの上から胸を揉みしだいていると、股間でもぞもぞと何かが動いている。目だけでそちらを見やれば、日出がベルトを外しているところだった。