EP.4「嬉しい事でもあったんだろ」-4
そして、その日の晩。
消灯時間を過ぎているにも関わらず、俺は3人・・・いや、2人から尋問を受けていた。
「この野郎、やっぱりいたんだな!何故黙ってた!」
「色々とすまん。いや、でもついさっき告白したばっかなんだよ。だから本当は明日改めて報告しようかな、とも思ってた」
「いつ報告したって同じだ!つうか、消灯過ぎてから言うな。なんかいやらしいんだよ!事後報告って響きが!」
声を荒げて俺をひたすら叱咤し続ける園田と目黒。
といっても憤りを含んでいないので、本気で咎めているのでは無さそうだ。
俺に彼女が出来たのを祝福してくれているのだろう。
でも、もうちょっとちゃんとした方法でやってほしい、というのは我が儘か?
「おまえら、さっきからうるさいぞ。静かにしてくれ、暑苦しいだろ」
黙っていた、というよりぐっすり寝ていた船木が、呂律が回ってない眠そうな声で呟いた。
こんなやかましくて蒸し暑い空間でよく眠れるな。本気でそのマイペースさが羨ましい。
「この部屋が熱帯夜に苦しんでるのはお前が原因だ!」
「その体型はちっともエコじゃない。見ているだけで暑いぞ」
「俺の体とかどうでもいいけど、もう寝ろよ。また先生に怒られたくないだろ?」
2人に矛先を向けられても、船木は全く動じていない。
こう見えても、人間だから心の中では色々と思うところはあると思う。
でも、それを接する相手に感じさせない強さは羨ましい。
或いは鈍感なんだろうか。まあ、どっちにしたって船木らしいと思う。
「おい、寝るな船木!お前ちゃんと人の話聞いてんのか」
「・・・いや、その質問は無意味だな」
目黒の言う通り、船木はもう鼾をかいていた。
そういえば俺はまだ船木が怒ったところを見た事が無い。
感情の起伏に乏しく、大体は無表情か笑っているかのどっちかだ。
落ち着きの無い園田と掛け合わせれば、丁度いいバランスになるかもしれない。
「くっそー、まさか岡山が一番最初なんてよー。一番女に興味無さそうな奴がなんで」
「分からんぞ。周りにそう見せるのが上手かったのかもしれない。俺達は騙されやすいからな、ピュアなハートの持ち主だから」
今更だけど、ばれてなかったのか。
夏休み前、消灯後に部屋でオナニーしたのを、皆は知ってて言わないのかと思ってた。
知らない方がいいんだ。
姉ちゃんをそんな風に見る友達なんて、気色悪いだろうからな・・・・・
今週の日曜日は今までで一番待ち遠しかった。
昨日もいつもみたいに放課後、話をしていた。
そしたら、いきなり高梨さんに遊びたいと誘われて、取り敢えず10時に駅に来てくれと言われて・・・
わりと普通の言い方だったので最初はデートに誘われたという実感が無く、寮に着いた頃にようやく嬉しさが込み上げてきた。
さて、どこにいるんだろう。
待ち合わせ場所を見回してみたが、彼女の姿は無かった。
こっちの駅ってあんまり来ないな、そういえば。今回も含めてまだ数えるくらいしか来てない。
物思いに耽っていると背中をこつん、と叩かれた。
「よ、早いね」
振り向いて目が合うとにこっ、と笑い、手のひらを見せて挨拶してきた。
袖無しの黒いパーカーに、デニムのショートパンツ、そしてボーダーのハイソックス、の高梨さん。
私服を見るのは初めてだったので、つい見入ってしまう。