EP.3「ついてるよ、ここ」-6
中に入ると、中に溜まっていた蒸し暑い空気が出口を求めて一斉に、そしてゆっくり這い出して来た。
まとわりついてくる暑さに、たまらず冷房をつけてベッドに寝転がる。
そして、そんなに広くは無いが中を見回してみる。
・・・タンスはそこにある。
机も、ちゃんとある。ベッドもここから動いてない。
先生が、一人暮らしした時、久々に家に戻ったら自分の部屋が物置になってたって笑ってたけど、まだ大丈夫だな。
うちの母ちゃんは事前に何の連絡もしないでやりそうだから心配だった。
だって、あの姉ちゃんの母親だから。
これから先絶対にやらないという保証は無いのだ。
「ふぁあ・・・・・あぁ」
急に欠伸がしたくなって、思い切り口を開いた。
他に誰もいないんだから遠慮なんてしなくていい。
何度かしているうちに目蓋が重くなってきた。
汗かいてるのに寝ちゃまずいな、と思ったけど、体に根付いた睡魔は徐々に全身へと染み込んでくる。
「戻ってきたんだなぁ・・・」
ここには、母ちゃんがいる。姉ちゃんだっている。
父ちゃんも夜になれば帰ってくる。
ここは俺が帰る場所なんだ。
誰かさんのせいでついさっきまで慌ただしかったけれど、ようやく落ち着けた気がする。
眠くなったのは、きっと遠く離れた場所での生活で張ってた気が緩んだからかもしれない。
およそ一月、もしないでまた戻らなくちゃいけないから、好きなだけ伸び伸びしとこう。
園田、目黒、船木に会いたかったけど、みんな俺と同じ東京だし、また寮で会えるから別にいいよな。
明日は、会えなかったこっちの友達と遊ぼう。
寝たら夜寝られなくなりそうだな。我慢しとこうか。でも・・・ちょっと休もう。
こんな時間からベッドに転がるなんて、向こうじゃ日曜日しか出来ない。
・・・・あ・・・なんか、頭が重い・・・
目が覚めると寮では勉強が始まる時間を過ぎていた。
パニックになって起き上がり、階段を降りかけたところで、ここは自分の家だと気付く。
「うるさいぞ、信之介。静かに降りろ」
リビングでそうめんを啜っている父ちゃんに怒られてしまった。
「ご、ごめん。ちょっと勘違いしちゃって」
「あんた随分寝てたわね。冷蔵庫にハンバーグしまってあるから、レンジでチンしてね」
「ああ・・・後でいいよ」
母ちゃんには悪いけど寝起きでまだ腹が減ってない。
また晩飯もそうめんかと思ったが、ちゃんと俺の好きなものを作ってくれたんだな。
俺が寝呆けているせいか、2人とも向こうでの話を聞いてこない。
父ちゃんはお帰りとも言わないけど、男親ってのはそういうものかな。
「先に風呂入るよ」
すっかり汗は乾いていたが、気分的にはまだすっきりしていなかった。
リビングに姉ちゃんはいなかったけど・・・多分もう寝てるのかもしれない。
休みの時は何故か早いんだよな。そして起きるのは決まって昼過ぎ。
毎日何時間寝れば気が済むんだ、うちの姉上様は。