五日目-3
「…みのりさん?」
「あ、あの、起きた?」
「なんか、挙動不審」
「そんなことないよ!」
「なんで怒るんですか」
「別に怒ってなんか…、あ、何か飲む?」
何かしてないと動揺してるのが丸分かりだから、とりあえずスポーツドリンクをコップに注ぐという行為でごまかした。
「…みのりさんだよね?」
「ん?」
「今、何時?」
「9時30分」
「みのりさん、帰ってきた?」
「だからここにいるんだけど…」
「あいつは!?話し合いは!?」
急に真面目な顔で詰め寄る姿に、また、胸が痛くなった。
「ちゃんと話したよ」
「…で?」
「終わらせてきた」
「…ほんと?」
「うん」
「別れたってこと?」
「うん」
「ほんとに?」
「ほんとに」
不安そうだったその顔がみるみる明るくなって、
「良かった」
そう言って笑ってくれた。
「心配してたんだよ、やっぱりあいつがいいとか言い出すんじゃないかって」
「…ね」
自分でも驚くほどあっさりしたものだった。
あんなことがあった後だから、会ったらもっと動揺するのかと思ってた。だけど、彼に対してあたしの心はいい方向には全く反応しなかった。
別れはあたしから告げた。
何の迷いもなく終わらせることができたのは、自分の気持ちに気がついたからかもしれない。
彼に会ってる時、あたしは秀君に会いたかった。
彼に会えなくなるより、秀君に嫌われる方が嫌だった。
もうすぐいなくなる秀君。
なんでもっと早く気づかなかったんだろう…
「みのりさん?」
「えっ」
「どうかした?」
「んーん、何もないよ」
スポーツドリンクを手渡すと、秀君はとても美味しそうに飲み干した。
「もっと飲む?」
「飲む!」
「ふっ」
「何」
「子供みたいだね」
「ふぇ!?」
「今日の秀君、高校生くらいに見える」
「…そっすか?」
「うん」
「そっすか…」
「うん?」
心なしか秀君がシュンとしたように感じて、何か話さなきゃと思った。