EP.2「夏休みっていつ?」-4
「・・・!」
土曜日の夜、トイレの中にいたら携帯が鳴った。
・・・見なくても分かる、また家からだろう。
「はい、もしもし」
¨よっ。不機嫌そうだな、どうした?¨
「げ、姉ちゃん?!」
思わず洋式の便座から立ち上がってしまった。
よりによって、何でこんな時に、しかも姉ちゃんが直接・・・
「な、何か用事かよ」
¨うん。ちょっと聞きたい事があってね¨
俺の頭の中にあるのは、素っ裸で全てを曝け出している姿だった。
いつか自慰のために妄想した映像が、こびりついて離れようとしない。
¨夏休みっていつ?¨
「そんなの聞いてどうするんだよ」
¨おいこらー、どうするって事は無いだろ。まさか休みでも帰らないつもりか?¨
「それは出来ない。寮、夏休みになったら閉まっちゃうし」
¨だろうね。で、いつよ?¨
・・・おかしいよ。
何で、姉ちゃんと話すだけで心臓が高鳴ってるんだ?
ついこないだまでは一緒にいても何とも無かったじゃないか。それなのに、変だ。
冬休みで並んでジャングルジムに座っても、本当に全然、心は穏やかな水面みたいだった。
全く姉ちゃんを意識した事なんて無かったのに・・・
¨信之介ぇー。電波弱いのか?聞こえてる?¨
「あっ、えっと、確か・・・7月いっぱいはまだ開いてる。だから、帰るのは8月かな」
¨ふぅーん、じゃあ、あと2ヶ月無いね。分かった、んじゃ¨
良かった、すぐ電話切ってくれたか。
あれ以上話してたら俺はいつかオーバーヒートしてたかもしれないからな・・・
悶々とした気持ちでトイレから出ると、園田と鉢合わせした。
「い、いたのか」
もしかして今の会話を聞かれたか。可笑しな事は言ってないとはいえ、動揺してしまう。
「姉ちゃんと仲良いんだな、ちょっと羨ましい」
「い、いや、別に普通だよ。それよか羨ましいって?」
「あ、言ってなかったな。俺さ、妹いるんだよ。でも超生意気で、本当うざくてさ」
園田は笑いながら個室に入っていった。
それ以上は追及しなかったけど、あまり妹と仲良く無いのは想像出来た。
姉弟、もしくは兄妹ってのはどこもあまり仲良くないとは良く聞く。
園田の妹は、わざわざ兄貴に電話してこないのかもしれない。
(じゃあ、妄想で汚すなんて有り得ないんだよな・・・)
やっぱり俺は普通じゃない。
切っ掛けは何だったんだ。ただの思い付きなんかで、そんな思い切った真似なんかできるはずがない。
思い出してみたが、これだと思える様な出来事や記憶は引っ掛からなかった。