夏の夜-後編--1
電話のバイブ音。
すぐとまったけど、私は目を覚ました。
そして、おねーさんは静かに部屋から出てキッチンにいった。
「ん、寝たよ」
小声で話してる。これは、私たちのことみたい。
おねーさんは冷蔵庫にもたれて床に座り込んでいた。
クスクス笑っては時々返事をしている。
電話の相手は彼氏さんなのだろう。
「んー。どうしよう……。帰ってくる?」
え、これは私たちが追い出した形になってしまうのかな?
彼氏さんが外で時間を潰すの?
「私?私はどっちでも……うん……じゃあ、帰ってきて。ん。……やだ、いつもの格好でいいよ。ん。待ってる」
おねーさんは柔らかな口調でそういって、ケイタイを閉じた。
その電話をしている顔がとても幸せそうでつい見とれていて。
顔を上げたおねーさんと目が合ってしまった。
「あ、ごめんね。起こしちゃった?」
「あっ、あの、私の方こそちょっと、その、聞いちゃって……」
「気にしない、気にしない」
おねーさんがにっこりと笑う。
「帰ってくるから、朝からまた起こしちゃうかも」
「それはいいんですけど、本当にいてよかったんですか?私たち。その、怒られたりしません?」
おねーさんはこちらにきた。布団の上に座って、私の頭を撫でた。
「そんなこと気にしてたの?いいコね。彼は優しい人だから大丈夫」
そういうおねーさんはとても綺麗で。
迷惑かけっぱなしで申し訳なく、でも、そう言ってもらえると安心する。
「優しいのは美里さんです」
本当にそう思った。
おねーさんは一瞬きょとんとビックリしたような顔をしてから、また笑った。
「ほんと?でもたぶんそれは、彼のおかげなの。……ごめん、のろけね、これ。圭さんに会って、私、いろいろ自信がついたから。いつか智美ちゃんにもわかるよ……って、まあ、あのボケ相手じゃ道は遠いのかなあ」
おねーさんはわざとらしくため息をつく。
それから、イタズラっこのような目で私の目をのぞき込んできた。
「ね。ハルのどこが好き?……ってきいてもいい?」
突然の質問に私は先輩と出会った頃を思い出そうとした。
「先輩は…、面倒見がよくて優しいんです。口では『知らん』とか『ほっとけ』とかばっかり言ってるんですけど。結局、ほっとけない性分らしくて、ブツブツいいながら最後まで手伝っちゃったりするんです。頭良いし……、かっ、かっこいいし」
おねーさんが、先輩のことを良く言わないから、ムキになってしまったけど、言っているうちにどんどん恥ずかしくなってきてしまった。