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夏の夜
【初恋 恋愛小説】

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夏の夜-後編--7

「いーの、いーの。また、遊びにおいで。ね?」

最後の『ね?』は彼氏さんに。

「いつでも、どうぞ。僕も美里さんもにぎやかなの、好きですよ。と、いうか、慣れてる?かな?」
「ぷ。」

おねーさんが吹き出す。
意外とお客さんを呼んでくるタイプなのかな?
二人とも友達つきあいが派手な気はしないけど。

いいな。美里さんって呼んでるんだ。私なんか名字で『佐野』だもんなあ。
目元がボサボサした前髪でよく見えなくて、ぼんやりした印象の彼氏さんと目を合わせて笑ってる。

「あ、夜中に突然ピンポンはダメよ。こわかったんだから」
「すみません」
「それについては俺。俺がまずいの。面目ない」

先輩がを上げて引き受けてくれた。

チン。

トーストが焼けたらしい。
おねーさんが皿に載せたパンをテーブルに置いた。





私たちは朝食を食べてから、帰途についた。

「あの二人、近い内に先輩の家にのりこむかも」
「うん、俺もそんな気がするねぇ」

電車の座席に並んで座り、ボソボソと話す。
日曜早朝の下り電車の車内は閑散としていた。

「いいの?」
「いいんじゃねえ?反対する理由がねえし。俺は関係ねえよ、ねえちゃんが決めるこった」
「ふーん」

意外に即答。
そういうものなのかな。

「まあ、既に同棲中ってのは意外も意外、びっくりだったけどな」
「ですね」



ずっと黙ってたら、先輩がぽつりと言った。

「ねえちゃんにハンパはやめろと言われた」

ハンパ?
なにを言い出したのだろう?

「なりゆきでつき合いはじめたから特に言ったこともなかったけど。……俺はトモが好きだよ」

電車の中で。
小声で。
最後の方が、車内のアナウンスにかぶってたけど。
ちゃんと聞こえた。

顔が熱くなる。
心がキュっとしてそわそわしてしまう。

「うん。ありがと」

先輩も上の方を見てこっち向かなかったけど、ちょっと顔が赤い。



電車を降りると、蝉の声がやかましかった。
街より緑が濃い。

先輩とは降りる駅が違うので電車の中で手を降って別れた。
口角が無意識に上がってしまう。
ニヤニヤ。
ダメダメ。
でも。


…『トモ』だって。

fin.


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