EP.1「ここ」-5
「もっとお姉ちゃんにいじられろ。春から会えなくなるんだからさ」
「・・・だから耐えろと?はっ、ふざけた理屈だな」
そういえば、そうだ。
まだ実感が無いけどしばらく姉ちゃんとは会えなくなるんだな。
まあ、だからって寂しくは無いけど。
寧ろほっとするくらいだよ。もう、こうして理不尽に振り回されはしないんだからな。
俺達はその後、近くのコンビニでカップ麺を買って戻り、ブランコに座りながら啜った。
寒い空気の中を湯気がゆらゆらと立ち上る。
「あー、まじー。お前、そっち食わせろ」
「あっ、こら!俺は醤油好きなんだよ、おい!」
姉ちゃんに無理矢理交換させられた塩バター味を、一口啜った。
「・・・うまいじゃん」
「マジ?舌おかしいよ」
そして、姉ちゃんは俺から奪い取った醤油ラーメンをずるりと啜った。
「・・・うまい」
「だろ。俺が選んだ味だからな!」
気が付けば、一緒にいる事に慣れていた−
−そして、4月。
中学の卒業式を迎えて、息つく間もなく入学した。
初めての飛行機、駅からバスで学校に行き、色んな人に会って・・・
それから入学式、校舎の案内、その他諸々、ああ疲れた。
「・・・・・・・・・」
自分の部屋から外を眺めると、桜の木がすぐ近くにあった。
綺麗なピンクの花びらが風に乗りひらひらと舞っている。
その向こうは山が構えて静かに佇んでいた。
もし、俺が地元の高校を選んでいたら、絶対に見る事が出来なかった景色だ。
これから3年間、一体どんな出来事が俺を待っているのだろう。
飛行機に乗っている間は不安な気持ちの方が強かったけど、いざ現地に来てみたら期待の方が大きくなっていた。
思い切って飛び込んでみたんだ。どうせなら楽しんでしまえばいい。
「・・・びっしりだな」
ベッドに転がりながら貰った1日のスケジュール表を見て、呟いた。
6時50分起床、7時点呼、清掃、7時20分朝食、8時10分登校・・・
この部分だけでちょっと不安になってきた。
細かいな、説明でもいってたけど本当に分刻みだ。
掃除や洗濯、各自の役割分担や共同生活のルールなど、色々としなくてはいけない事があり、
レクリエーションや体験学習などの行事もあって、厳しいけど楽しい時間もあるらしい。
また、先生達が数名ずつ、交代で舎監として泊まりますが、勉強やいろいろな悩み等も気軽に相談する事が出来る、らしい。
聞いてた時は楽しかったんだけど、これから先やれるのか不安になってきた。