異界幻想 断章-4
「よし。行こう」
立ち上がってフラウの手を引くと、素直についてくる。
風呂場には手伝いのメイドが二人と大きな盥、大量のタオルが用意されていた。
「あれに入って」
盥を指し示すと、フラウは黙って従った。
「湯をかけるから、目と耳は塞ぐんだよ」
メイドの一人が浴槽から湯を汲み、もう一人がフラウの体からぼろきれを剥いだ。
「ひっ!?」
途端、メイドが鋭く息を飲む。
「ん?どうし……た……」
メイドの視線をたどったジュリアスは、フラウの体を見た。
ぼろぼろな体の割にしっかり自己主張している乳房と相反する、股間の肉棒。
「君は……そうか」
世にも珍しい肉体を持つフラウだから、幼い頃から好事家に貸し出されては金銭を稼いでいたのだろう。
「今まで私を買ってくださった方は皆、この体にたいへん満足して……」
「俺は君をそういう風に見ない」
意志も感情も感じられないフラウの言葉は、ジュリアスにとってもどかしかった。
気を取り直したメイドが、二人掛かりでフラウの体を濡らした。
本来なら希釈して使うはずの洗浄料を原液で振り掛け、分担して体を擦り始める。
盥の湯は、すぐに真っ黒く染まった。
湯を捨て、洗浄料を振り掛け、体を洗う。
何度もそれを繰り返して流れ落ちる湯が透明なままになるまでフラウを磨けば、やはり彼女は美しかった。
色の分からなかった髪は、見事な赤銅。
できものの一切見当たらない肌は白く滑らかで、輝かんばかりだ。
だが……温めたミルクにできる膜のように、濁った色は瞳を覆ったままである。
その頃、ティトーが顔を出した。
「お、綺麗になったな」
手に持つのは、下着と簡素な服。
「理髪師を連れてきた。ついでに髪を整えてもらおう」
ティトーに続いて入ってきた人物は、長さのばらばらなフラウの髪を手早く切り揃えた。
前下がりのショートボブになった髪を洗い流した後、体中を拭いてから服を着せる。
「服は姉のお下がりになるが、下着は新品だ。よく似合うじゃないか」
自分の見立て通りにサイズぴったりだった事で、ティトーはご満悦だ。
服を着せる際にフラウの体を見た訳だが、ティトーは驚いたそぶりなどかけらも見せない。
「さて……夕飯でも食いながら、詳しい話を聞かせてもらうぞ」
表情を引き締めてティトーが言うと、ジュリアスは頷いた。
「フラウ。もちろん、君も一緒だよ」
ジュリアスが腕を引くと、フラウはおとなしく従った。
三人で食堂に行くと、そこにはファスティーヌが待ち構えていた。
「ちょっとティトー!あんた……そちら、どなた?」
フラウに気づくと、ファスティーヌは怒鳴るのを止める。
「これからジュリアスに聞く所だよ。何なら、姉ちゃんも聞いといたらいいんじゃねぇの?」