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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想 断章-5

 コックはフラウの特殊な育ちを考慮して、ナイフとフォークのいらないつまめる軽食を出してくれた。
 飲み物片手に軽食を腹に納めながら、姉弟は二人の話に耳を傾ける。
「……で、これからどうするつもりだ?」
 ファルマン伯爵邸に飛び込んでくるまでの経緯を聞き終えると、ティトーは尋ねた。
「フラウをこのまま放り出す訳にはいかない」
 ジュリアスは、きっぱりと言う。
「けど……もう家には行きたくない」
 行きたくないという表現に、ファスティーヌとティトーは顔を見合わせる。
 通常、家は『帰る』ものであって『行く』ものではない。
「……俺は、親父が許せない。こんなの、間違ってる!」
「ねえ……ジュリアス」
 ファスティーヌが、恐る恐る尋ねた。
「……いえ、いいわ」
 言葉を濁して目を逸らすが、彼女は感づいていた。
 これは、未来の大公爵に必要な教育の一環なのではないかと。
 フラウの境遇に心を痛めすぎて聞く耳を持たないジュリアスにそれを指摘しても仕方ないので、口を閉ざしたのだ。
「まあしばらくは二人ともうちに泊まれば問題ないだろ」
 肩をすくめてティトーが言う。
「フラウ……だったな。正直な話、君はいくらで身請けされた?」
 冷酷な光を宿した目が、フラウを見据えた。
「ティトー!」
 かっとなったジュリアスが叫ぶが、ティトーは腕の一振りでそれを黙らせる。
「彼女を自立させたいなら、聞かなきゃならない質問だ。邪魔が入ったからもう一度聞くが、君はいくらで大公爵閣下に身請けされた?」
 問われたフラウは、身請け金を答える。
 その金額に、三人は驚愕した。
 人気娼婦の身請けにかかる平均金額の、およそ五倍である。
 ちなみに人気の娼婦を身請けするのには、最低でも広い庭付きの豪邸を高級家具などの内装込みで三棟は建てられるだけの額面が必要になる。
「まぁめったにいない体だから吹っかけたんだろうが、それにしても……」
「五倍……」
 姉弟で声を揃え、がっくり肩を落とす。
「……で?」
 苛立った声で、ジュリアスは尋ねる。
「身請け金の額が、フラウにどう関係するんだよ?」
 ティトーはテーブルに肘をつくと、手の平に顎を乗せた。
「彼女を自由に……お前の側仕えから解放したいなら、その金を大公爵に払うのが筋って事だ。何と言っても彼女はお前のために買われた訳だから、それを放棄させるには彼女が背負う身請け金を肩代わりして大公爵に払ってやらないと」
 少し考えてから、付け加える。
「お前が閣下と絶縁したいなら、なおさらな」
「そこはあまり心配しなくていいんじゃないかしら」
 ファスティーヌが、自分の考えを披露する。
「この子、奴隷生活と精神が染み付いてるもの。当分の間、普通になるための訓練をしなきゃならないわ。そのうち、いい考えも浮かぶわよ」
 楽観的な意見に、ティトーは反論した。
「そのうちって……五倍の身請け金を、どうやって払う気だよ?うちの親父に出させたら、間違いなくこの家は抵当に入るぞ」
「ユートバルトからいくらか借りられないかしらね?」
「姉ちゃん……」
 ティトーは鼻根をつまんで、頭痛を抑える。
「……あ!」
 何かを悟ったファスティーヌが、声を上げた。
「私が言ってるのはね、まともな手段なら短期間で返すのは無理って話よ!?ジュリアス、あなた実家を出奔したら無一文なのは承知で出てきたのよね!?」
 むっつり黙っていたジュリアスは、不本意そうに頷いた。
 莫大な収入が欲しい時に無一文とは……短気にも程がある。
「まずはお前の就職活動からか」
 ため息をついて、ティトーは言った。
 友人としての好意で家に二人を置く事はできるが、ジュリアスには自分の食い扶持くらい自分で稼いでもらえないと困る。
「……何なら軍に入らないか?」
 冗談半分で、ティトーは勧誘した。
 肉体より知性の勝るティトーだが、ユートバルトの役に立つために肉体鍛練も兼ねて軍に入隊していた。
 そこで現在の神機チームに才能ありと見初められ、今はカイタティルマートのパイロット候補生として研修中なのである。
 今日の所はたまたま、親戚の法事とジュリアスの退館祝いのために休暇をもらったので家に滞在していたのだ。


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