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夏の夜
【初恋 恋愛小説】

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夏の夜-前編--4

「ごめんなさい!」

お風呂から出てきた智美ちゃんは、ハルがいなくなったとたん、ハルと同じような台詞を言った。
正座して、頭を下げて。

「大丈夫だからね。ハルがいけないんだからね」

そういったけど、彼女は首を振った。

「違うんです、わざとなんです。コンサートのグッズ買うのに手間取ったフリして。その…」

彼女は顔を赤らめて言いよどむ。
私は理解した。

このコはハルに愛されたくて、そのチャンスを作った。
そして、ハルはこのコを大事にしてて、そのチャンスを潰した。

「私、先輩のなんなのかなって…分からなくなって…それで…」

彼女は俯いたまま泣いていた。
見なくたって、鼻声でわかる。

「あのバカ……。彼女をこんなに不安にさせて」

さらに、こんな緊張するしかない場所に連れてきて。

「いえ。”彼女”というわけじゃなくて、私が一方的に好きで…。と、友達っていうか」

あれ?なんだろう、この見解の相違は。
ハルは付き合ってるつもりのようだったけど。

彼女の言い分はこうだった。
彼女から告白したが、ハルはそういうことは考えてなくて、『他に好きなコもいないからとりあえず付き合ってみる』程度の返事だった。
それからそのまま1年半たった。
ハルは回答保留のまま、智美ちゃんも回答要求をしていない状態。

「あんのバカ。ほんっとバカ」

ハルは宙ぶらりんの心細さなんて、きっとわかってないに違いない。
いや、こんなことで思い煩っているなんて知りもしないんだろう。
もう、付き合ってると思ってるみたいだから。

「そんなの気にしないの。ハルは智美ちゃんのこと大事にしてるよ。だから、ここに連れてきたんだよ」

私は彼女の肩をぽんぽん、と叩いた。

彼女は顔をあげ、潤んだままの瞳で私を見つめる。

「だってねえ、あのコ、もう智美ちゃんと付き合ってるつもりでいるんだよ」
「え……」

私はクスクスと笑った。
目を見開いて固まった智美ちゃんはちょっとパニックを起こしているみたい。

「もういいから、コッチにおいで」

私はちょいちょいと手招きでキッチンの方に呼び寄せた。

「手伝って。これ切ってくれる?」

こういうときはなにもすることがないよりも、仕事をあげるのが一番。
彼女は笑って、冷蔵庫から出した長ネギを受け取った。






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