夏の夜-前編--2
「なにか、お茶淹れようね。苦手ある?コーヒーとか紅茶とか」
滅多にお目にかからないけど、稀にいるのだ。カフェインがダメとか、コーヒーが飲めないとか。
「いえ、ないです。すみません」
「ん、いいんだよ」
彼女は悪くない。イケナイのはハルだ。
私は笑ってからキッチンに向かった。
キッチンではハルがケトルに水を入れていた。
気を利かせてお湯を沸かすなんてことは、ない。たぶん。
「あんた、なにやってんのよ」
「俺ら、ラーメン食うから。ねえちゃんもなんか食う?」
そう言いながらシンク横に置いたレジ袋を持ち上げ、ガサガサと振った。
彼女を放置でこれか。頭が痛くなる。
「何買ってきたのよ」
「えーと。カップ麺とつまみとビール。ウーロンもあるよ」
「……」
ますます頭が痛い。
あんた、ビールには、まだイッコ歳が足りてないし。
食べるだけなら遅くまで開いてる店もあるだろうに。
そりゃあ、大学生の小遣いじゃ、きびしいのも分かるけど。
だったら、ファストフードだっていいじゃない。
彼女にしてみれば、その方がどれだけ気が楽か。
ため息だって出てくるってもの。
「…いいわ。なんかしたげるからシャワーあびてらっしゃい。智美ちゃんが先ね」
「やり!らっき!」
らっき!じゃないわよ。
私は弟の頭を叩いた。
「バスタオルと、これ、着替えね。下着はあげる。安物だけど。カップ付のタンクトップだから、多分サイズは大丈夫だと思うの」
私は洗面所で彼女にパッケージに入ったままの下着と、パジャマを渡した。
彼女は小柄で華奢。Mサイズで窮屈なんてことはないだろう。
「え?そんな…。タオルだけで…」
彼女はやっぱり恐縮してしまっている。無理もない。
「ああ、もう、そんな顔しないで。いい?あのバカが悪いの。智美ちゃんは悪くないの」
「でも……」
可愛い。実際、弟が彼女のどこに惹かれているのかはわからないけど。
いいコじゃないの。
「いいからいいから」
「あ…ありがとうございます」
「うん」
ようやく彼女が笑った。満面の笑み、とまではいかないけれど。
私は『どうってことないよ』と手を振って洗面所を出た。