投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「桜館の女」
【サスペンス 推理小説】

「桜館の女」の最初へ 「桜館の女」 2 「桜館の女」 4 「桜館の女」の最後へ

「桜館の女」-3

白猫と遊んでいると
来客があった。
「これでいいでしょうか、着物のお色は」
「ああ。いいよ。撮影は夜だ。ゆっくりして」
そんな話し声が聞こえた。
夕方お風呂に入り肌の手入れをしていると
昨日と同じようにイノさんが来た。
わたしの腕をさすりながら
「きれいだ。
この美しさをフィルムに残したい。
協力して欲しい。」
と言った。
来客は向こうの部屋でにぎやかにやっている。
客を置いてわたしの腕をさする彼を愛しいと思う。
「いいわ。」
わたしはにっこりと了解した。

それから、彼は向こうの部屋に声をかけた。
2人の女性がわたしに着物の着付けをし
髪を結い化粧をした。
2人の男性が桜の木の下に縁台を置き
傘をたてかけ、照明の角度を決めている。
イノさんはカメラの手入れをしている。
あれよあれよの展開に驚いてしまったわ。

化粧をしてくれた女性が
「太らないことね、太ったら捨てられるわよ」
と耳打ちした。
「先生は気まぐれだから、移り気だから・・」
イノさんの正体は先生なのかしら。
何の先生?とにかく太らないようにしようと
なんとなく心に決めた。

日が落ち、闇が迫ると
撮影は開始した。
座ったり立ったり指示に従うわたし。
後ろを向いたり振り返ったり。
すました顔でたくさんのフラッシュを浴びた。
花は満開。枝が風に揺れる。

1時間ほどで
「今日は終わり」とイノさんが叫んだ。
「だめだ。だめだ」と機嫌が悪い。
男性2人がおろおろしている。

着物を脱ぎ、化粧を落として
イノさんのところに行った。
客人は仕出し弁当を食べていた。
食べ終わった客人が帰ってから
イノさんと一緒に食事をした。
初めて日本酒のお酌をした。
「明日も協力してくれる?」
「いいけど・・」
黙ってお酒をいただいた。
イノさんはわたしを見つめている。
このままずっとここで暮らしたい。


「桜館の女」の最初へ 「桜館の女」 2 「桜館の女」 4 「桜館の女」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前