FULL MOON act5-2
「絵里?」
「え…伸太?」
「…どうしたんだよ。イヤなのかよ」
同じバイト先の一応先輩の室伸太(むろしんた)。彼は昔から知っていた相手でもある。あからさまに嫌な顔をしてしまった。
「そうじゃないよ。ただ今日イヤなことがあったから」
「お前さ」
「…なによ」
「今日の仕事。あの態度はねーんじゃねーの?」
かぁっと頭に血がのぼるのが分かる。あんたに…
「あんたに何が分かるのよ!」
「…は?」
自分でも大声を出しすぎたのは気付いた。でもとめられない。折角気持ちをおさめたと思ったのに。
「…何があったんだよ」
「言わないわよ!…結局言ったって分からないし!」
「…!そんなこと分からねーだろ!言え!」
怒鳴られて肩が震える。涙が出てきた。
「そんな怒鳴らなくたって…いーじゃ……うう…」
「………はぁ。泣くなよ。人がいるだろ」
ため息をつかれて尚更涙はとまらなくなる。人がいるからなんて、関係ない。
「ちょっとあっちのベンチ行くか。来いよ」
手をとられた。引っ張られたままになる。
怒鳴られたのに、…また泣けた。
室伸太。彼は幼なじみだ。といってもずっと一緒ではなく…
彼は絵里が中学のときに転校してしまった。
最近引っ越してきたのは知っていたけど、挨拶する暇もなく、何の巡り合わせかバイト先が一緒になってしまったのだ。
それからはよく話す。