異界幻想ゼヴ・エザカール-7
「なんじゃこりゃ……」
「お前達、止まれ!!」
門番が、こちらに向かって槍を突き出して威嚇しながら叫んだ。
「土の神殿に何用か!?」
「不審者め、名を名乗れ!」
尊大な物言いに、ジュリアスはかちんときたらしい。
「我が名は炎の最高位クルフ、ジュリアス!我が前を塞ぐ貴様らこそ何者か!?」
喧嘩腰で名乗りを上げると、バスタードソードの柄に手をかける。
「まあまあ、落ち着け」
ジュリアスをなだめつつ、ティトーが前に出る。
「我は風の最高位アレティア、ティトー・アグザ・ファルマン。さあ名乗ったぞ。これからどうするつもりだ?」
いつも笑っているように見える双眸は全く笑っておらず、ティトーもジュリアス同様に喧嘩を売っていた。
せめてフラウは冷静かと思ったが……二人を押し退けて前に出たその顔は、いっそすがすがしいほどに無礼な態度への苛立ちで一杯になっている。
「我は、水の最高位サフォニーたるフラウ。我々は、そなたらの元へ土の最高位ミルカを連れてまいった。なにゆえそなたらは、かかる無礼な振る舞いに及ぶ?」
古めかしい名乗りと言葉遣いのせいなのか、それともそうそうたるメンツに驚いたのか。
はたまた、名乗っただけでは本物と確信できないからか。
武装した男達は落ち着かなげに視線を交わし……覚悟を決めたらしい。
四人に向かって、槍を構え直す。
「我々は!」
「神殿長様より!」
「何人たりともここを通してはならんと!」
「厳命されている!」
ティトーが、抜け目ない顔で二人を見る。
「ほう……分かった、この場は引こう。行くぞ、三人とも」
元きた道ではなくバリケード沿いに神殿の脇へ回り込む道を歩き始めたティトーを、三人は慌てて追い掛けた。
バリケードが背の高い垣根に変わった頃、ティトーは足を止める。
「……一体、何に感づいた?」
一歩遅れて馬を止めると、ジュリアスは尋ねた。
「少なくともあの門番達は、神殿を封鎖したくてしてる訳じゃないって事だな」
「はぁ!?」
思わず問い返したジュリアスに向かって、ティトーは言う。
「そうでなきゃ、どうしてあんな説明的に叫ぶ必要があるってんだ」
「あ……」
フラウが、口許に手を当てる。
「ちょっと情報収集したい所だな。神殿内で、何が起きてるんだか」
ティトーは生け垣を眺め、忍び込めるかどうか算段し始めた。
しかし生け垣の高さと厚みは相当なもので、忍び込むのは無理そうだ。
「……えーと」
何が何やら分からない深花が、ようやく声を発する。
「ここの最高権力者の神殿長がだな、お前を入れたくなくて参拝客まで丸ごと締め出しを食らわせてるんだよ」
ジュリアスが、分かりやすく解説した。
「どれだけ前からこの状態なのか分からないけれど……市局が対応してないのはおかしくない?」
フラウの意見に、ティトーは親指の爪を噛む。
「市局も一枚噛んでるか……俺達の手に余るな」
「ザッフェレルにお伺いを立てとくか」
「だな」
ティトーは荷物を探り、魔具を取り出した。
表面をいじってなにやら調整し、耳に魔具を当てる。
「ザッフェレルか?実はトラブルが……」
ティトーが事情を説明している間に、深花は周囲を見回した。
ちょうどその時、ごそっと神殿の垣根が動く。
「ひぃっ!?」
派手な悲鳴を上げた瞬間、ジュリアスが剣を抜き放つ。
「何者っ!?」
誰何の声に、垣根の向こうから少年の声がした。