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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・エザカール-8

「あ、怪しい者じゃありません!」
 生け垣の上から、少年が顔を出す。
 年は深花より幾分か下に見受けられる。
 色の薄い金髪に水色の瞳と、盛大にそばかすの散った頬。
「ぼ、僕はラアトと言います。ここでお世話になっている神学生で……」
 生け垣から顔を出した姿勢のままで、少年……ラアトは、四人に弁明する。
「この先に、学生寮の入り口があります。厩舎も備えてますから、隠れられますよ」
 突然の申し出に、四人は顔を見合わせた。
「入り口は魔具でロックされてますけど、僕が内側にいるから問題はありませんし」
 早口に何かを喋って通信を切ったティトーが、結論を出した。
「とりあえず、君の誘いに乗ろう。入り口はどっちだって?」


「手狭で申し訳ないんですけど」
 ひどく恐縮しながら通されたラアトの私室は、簡素の一言に尽きた。
 狭いベッドに書き物机しか置けない広さで、五人入るとぎゅうぎゅう詰めである。
 ティトーとフラウはベッドに腰掛け、ジュリアスとラアトは立ったまま。
 深花はうやうやしく書き物机の椅子に座らされ、何となく落ち着かない。
「俺達は、とにかく情報が不足している。一体ここで何が起きているのか、説明が欲しい」
 ティトーの言葉に、ラアトは頷いた。
「はい。始まりは、二週間ほど前の事です」
 ラアトは、自分が知っている限りの事を話し出す。
「長様が……急に神殿内で生活する全ての人間を召集して、『これから災厄が来る。我らはこれよりかつてない災厄から身を守るために一致団結せねばならない』とおっしゃられて、神殿内に戒厳令を敷かれました。それからは一般参拝客はもちろんの事、他神殿からの巡礼者すら締め出されて……」
「二週間か……バランフォルシュに教えられたな」
 ティトーは呟き、苛立たしげに指を組む。
「僕達神学の徒も、世間で言われるほどに無知ではないです。ミルカ様のご帰還は小耳に挟んでおりましたし、もしかして……とは思ったのです」
「権力者のくせにみみっちい奴だな」
 呆れたように……いや実際、かなり呆れてジュリアスが言った。
「自分より偉い地位の奴ができるのイヤ!ボクそんなの認めたくないからミルカを締め出しちゃうもんねー!って事だろ?」
「要約すればそうなるんだろうな」
 ティトーは肩をすくめる。
「さてそうなると……戒厳令を解除しない限りバランフォルシュにゃ会えないって事だな」
「でもどうするの?市局も噛んでるなら、たれ込んでおしまいって訳にはいかないわよ」
「簡単じゃねえか」
 ジュリアスが、剣の柄を叩いて言った。
「市局に金をばらまいてまで現在の地位に固執し、戒厳令を発令するような男。世間じゃそういう奴は闇に葬られるのが妥当な評価だ」
「ち、ちょっと待って下さい!」
 ラアトが、慌ててジュリアスを止める。
「神殿長様は戒厳令発令後、常に手練れの護衛を引き連れて守りを固めています。クルフ様の実力を疑う気は毛頭ありませんが、楽に遂行できる訳でない事は保証できます!」
 がり、と親指の爪を噛んでティトーが再び考え込む。
「その護衛が恐くて、中の連中は反乱を起こせないでいる訳だな。となると……こっちも戦力をかき集めて対抗するか」
「戦力って……軍を動かしたら、市局が黙ってないわよ」
 フラウの声に、ティトーは笑った。
「軍は動かさないし、神殿内の人力も当てにしない」
 自信たっぷりに言い放つと立ち上がり、ラアトの肩を叩いた。


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