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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・エザカール-6

 ジュリアスは、恐いのだ。
 怒りと反発からキーキー騒いでいた頃の自分であれば、その事を無視するだけで済んだ。
 しかし、今の自分は……未熟ではあるがかけがえのない仲間。
 さらに、彼の出生を知っても態度を変えなかった唯一の女と言ってもいい。
 そんな人間に怯えられてしまう事が恐くて、ジュリアスはこうしている。
 ジュリアスの思考が深花へなだれ込んだのと同じように、深花の思考もジュリアスへなだれ込んでいた。
 平然と人を殺したように見える自分への怯え。
 申し出への純粋な驚き。
 抱き締められた事への戸惑い。
 雑多な思いが混沌としていて、深花がどうするべきか悩んでいるのがよく分かる。
「な、何で……」
 宝石の位置がずれ、思考の奔流が止まってから深花は呟いた。
「どうしてあなたの考えが分かるの……?」
「俺達の、特性だよ」
 偶然ながらも思考を露にしてしまった事で開き直ったのか、ジュリアスはますます強く深花を抱き締める。
「宝石を握ったり、触れ合わせる事によって自分の思考をオープンにできる。離れた場所にいても耳が聞こえなくても、これで連携が取れる」
「そんなの……私、知らない……」
 呟くように抗議すると、ジュリアスは苦笑した。
「そりゃそうだ。デメリットも大きいから、お前には秘密にしてたもんな」
「デメリット?」
「ほんの一瞬だったから、今のはお互いの気持ちを理解するだけで済んだ。けど、本来は……自分でも隠しておきたい蓋をしておきたい思考の底の底、どす黒い掃きだめまでオープンにしちまう。俺とティトーは元からお互いをよく知ってるし、フラウもまあ問題はなかった。けど、お前は……」
 途中で言葉を切ったが、言いたい事は分かった。
「……恐がらせて、ごめんね」
 深花は腕を伸ばし、ジュリアスの首に抱き着く。
「もう、大丈夫。あなたの事も、恐くないから」
 男の体の下で張り詰めていた筋肉の緊張が緩むのを、深花は感じた。
「まだ、割り切れる訳じゃないけど……好意は、素直に受け入れておくわ。もしもその時が来たら、お願いね」


 街道を走り続け、大きな街も小さな村も駆け抜ける事五日間。
 土の精霊バランフォルシュを祀る神殿は、もう少しの所にあった。
「空気が、違う……」
 深花の呟きに、フラウが首をかしげた。
「どう違うのかしら?」
「うまく言えないけれど……温かい感じがして、すごくほっとする」
 首元から取り出し、目の前に掲げたペンダントはうっすらと輝いていた。
「いわば、自分の家に帰ってきたようなものだからな。そりゃほっとするだろうよ」
 肩をすくめ、ティトーが言う。
「見えてきたぞ」
 手の平で目の上にひさしを作り、遠くを見ていたジュリアスが注意を促した。
 草原の向こうに、ギリシャ神殿様式の建物が見える。
「……」
 薄い違和感に、深花は眉をしかめた。
「……神殿って、参拝客とかがいるものだと思ってましたけど」
「まあ、たいていはそうだが……何が言いたい?」
 ティトーの声に、深花は困惑した表情になる。
「どうしてここまで近づいているのに、歩いて神殿に向かう人がいないのかなって」
 今歩いているのは神殿へ向かう道なのに、見える姿は自分達だけ。
 それこそが、違和感の正体だった。
「……そう言われると、そうだな」
 ジュリアスの目が、すうっと狭まった。
「トラブルの匂いがしやがる」
「血を沸き立たせちゃ駄目よー?」
 フラウのからかうような声に、ジュリアスは頬を赤くする。
「まあ、行ってみりゃ分かるこった」
 こきっと首を鳴らすと、ティトーは馬に指示を出した。
 今までより少し速く、馬が走り出す。
 三人はそれに続き、やがて四人は神殿入り口までたどり着いた。
 通常であれば参拝客でごった返すはずの入り口が……バリケードが張り巡らされ、武装した男二人により封鎖されている。


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