異界幻想ゼヴ・エザカール-11
翌日。
この日門番に立っていた男達は町へ通じる道をたどってやって来る、四人の男女を見た。
精悍な軍馬にまたがった女だけは丸腰だが、他の三人はそれぞれに武装している。
「お前達!止ま……ひいっ!?」
馬の手綱を引いていた男が、背中からバスタードソードを引き抜いた。
それだけなら、ただの敵対行為である。
しかし、男は一味違った。
引き抜かれた剣の刀身を、燃え盛る炎が包み込む。
「我が名はクルフ、ジュリアス!敵対する者は容赦なく叩っ切る!その身を業火に焼かれたくば、我に挑むがよい!」
古めかしい名乗りと燃える剣のインパクトは、門番の度肝を抜いた。
一瞬、威嚇用に持っている槍を握る手が緩む。
もう一人の男はそれを見逃さず、奇妙なジェスチャーをした。
急に突風が吹き、門番の手から槍をもぎ取る。
「武装解除、いっちょあがり。さあ、おとなしく投降しとけ」
槍はこちらに頭を向けて二人の前に静止すると、尖った穂先で心臓に狙いをつけた。
奪い返されないよう、槍の位置は変化し続けている。
「アレティアの芸は、お気に召したかな?」
動転していた門番だが、赤毛の女が消えたのに気づいた。
目だけを動かして女の姿を探そうとした門番は、首筋に当てられた冷たい刃物の感触にぞっとする。
「動かないでね。動いたら容赦なく切るわよ」
いつの間にか背後を取られていた事に、門番は絶望した。
実力に、差がありすぎる。
先に拘束されていた相方共々、門番はがんじがらめに縛られた。
「お前達!」
飛ばしていた槍を自分の手に納めた男は、声を張り上げた。
擬態用のシートをかぶって待機していた撤去班がシートを跳ね退け飛び出して、瞬く間に堅牢なバリケードを取り壊していく。
門が取り壊された頃、本隊が到着した。
「行くぞ!」
各部署の制圧は、比較的容易だった。
何しろ、中にいるのはほとんどが戦闘経験のない学生や神官達。
しかも、神殿長が雇った護衛が恐くて逆らえなかった連中ばかり。
隅々に渡る残党の狩り出しも、手早く終わってしまった。
しかし、異変をいち早く察知して神殿に立て篭もった神殿長一派は一筋縄ではいかない。
「一番めんどくさい展開になったなぁ……」
髪を掻きむしりながら、ティトーが唸る。
「さすがに神殿ぶち壊しはまずいからな」
面白くなさそうに、ジュリアスが鼻を鳴らす。
「ど、どうするの……?」
深花の声に、ティトーは不敵に笑った。
「まあ、策はある」
「たとえば?」
フラウの質問に、ティトーは片目をつぶってみせる。
「気長にやるなら兵糧攻めだが、今回はやらない。あんな奴らの吐き出した代物で神殿が汚されるのは、バランフォルシュも嫌だろう」
「それじゃ……」
「旦那ぁ」
アザドの声が、四人の間に割って入った。
「言われた奴を連れてきたぜぇ」
アザドの後ろには……ラアトがいた。
その表情には、戸惑いの色が濃い。
「あの、僕をお呼びとか……?」
にぃ、とティトーが笑う。
「もちろんお呼びだとも。ちょっと聞かせてもらおうか」
「はい。何なりと」
幾分か背筋を伸ばしたラアトに向けて、ティトーは質問した。