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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・エザカール-12

「本殿には、各施設に通じる抜け道があるはずだな?ここでは機能しているか?」
「いいえ。地下道は、数年前に落盤で潰されてしまっています。予算の都合があって、修繕もはかばかしくなくて……」
「よしよし。神殿長が逃げ出す気遣いはないな」
 にぃっとした笑みが、にんまりに広がった。
「アザド。ちょっとこっちへ」
 ティトーとアザドは少し離れた場所まで移動すると、なにやら話し込み始めた。
 二人揃って片手で口許を隠しているのを見て、深花は首をかしげる。
「何を話してるのかしら?」
「人に聞かせたくない事を相談してるのさ」
 ジュリアスはどこからか小ぶりの砥石を取り出すと、バスタードソードを抜いて刀身を研ぎ始めた。
 耳障りで不快な音だが、この場に集まった人間にはこの上なく頼もしく聞こえる。
「……嫌な音ですね」
 ラアトが小さく言うと、ジュリアスはさらりと流した。
「神殿長もそれなりの覚悟で立て篭もってる。なまくらで相手をするのは失礼ってもんだ」
 しゅいっ、と砥石が刃に滑る。
「せめて苦しまないよう、一撃で仕留めてやるさ」
 アザドと話し続けているティトーが首元の宝石を掴んだのを、深花は見た。
 誰か……どちらかと、意思を通わせている。
 刀身を研ぎ続けているジュリアス。
 集まった男達の熱い視線を集めているフラウ。
 二人とも表情に変化は見られず、ティトーがどちらと何を交信しているのかは分からなかった。
 どちらかではなくどちらともの可能性に気づいた深花は、眉間に皺を寄せる。
 そこに参加するのは、簡単だ。
 ただ、ペンダントを握ればいい。
 しかし……思考の底の底、普通の人間なら隠しておきたいどす黒い掃きだめまで三人に晒したいとは、思えない。
 そうやってためらっているうちにティトーとアザドの相談は終わり、二人は三人の元に戻ってきた。
「指針は固まった。作戦を開始する」
 ティトーが簡潔に宣言すると、アザドが指令をがなり始めた。
「ラアト。君は俺達と一緒に残れ。下手したら踏み潰されるぞ」
「あ……はい」
 ティトーの言葉に、ラアトは頷いて踏み出しかけた足を止める。
 男達は隊を組み、神殿の正面入口を突破するべく破城槌を用意し始めた。
「あー、あー」
 発声練習をすると、ティトーは声を張り上げる。
「聞こえているか、神殿長!」
 その声はまるでスピーカーでも使っているかのように、神殿めがけてよく響いた。
「俺はホーヴェリア・ゼパム王立軍所属ティトー・アグザ・ファルマン中尉だ。俺達はミルカをバランフォルシュから対面させるためにここへ来た!しかし、お前達の理不尽な反抗によりそれが阻まれている!我々に他意はない。繰り返す、我々に他意はない。我々はミルカとバランフォルシュの対面を実現させたいだけである」
 ティトーの呼びかけに対する返答は……沈黙。
「返答がない場合、我々に敵対すると見なす。その場合、中に立て篭もる君達に容赦はしない。徹底的に叩き潰す事になる」
 すっと息を吸い込み、ティトーは続けた。
「なお、各施設に通じる連絡道は先に封鎖させてもらった。君達に逃げ場はない。徹底抗戦となるから覚悟しておくように」
「なっ……!?」
 自分の意見が全く信用されていなかったと知り、ラアトの頬が真っ赤に染まった。
「彼の態度以何だが、自称神学生のラアト君の身柄は拘束させてもらう。罠としては少々あからさまだったが、それなりに楽しめたぞ」
 ラアトは、いつの間にか背後に回ったフラウが抵抗できないよう的確に体を縛り上げているのを感じた。


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