初夏のすれ違い / コトバ編-2
「言っとくけど、亜紀子を泣かしたら許さないからね!?
あの子はね、今すごく不安定なの。
あんなにやつれて…見てられない」
「…るせーな、痩せたことくらい、俺だって気付いてるよ」
「…それなら!
あんたに、お願いがあるの。
脅すのは、もうやめて。
それから…近親相姦を、やめさせて」
「それは無理」
…つーか、知るか、そんなこと。
内心で呟く。
「…あの子ね、あんたをかばうの。
あたしが何を言っても、あんたは昔から知ってる相手だから、って…」
悔しそうにくちびるを噛んだ結衣は、「いい加減にしないといつか大変なことになるからね」とクギを刺して、サクの前から去って行った。
サクは、脅している側だからなんとか無表情を保ったが、心の中にはそれこそたくさんのクギが残った。
でもとにかく、やっと亜紀子の考えていることが少しは分かった気がした。
なぜおとなしく脅され続けるのか、サクには全く分からなかったから。
…―よく知る相手は警察に突き出せない、ってワケか。
本当におひとよしなヤツ、と苦笑してしまう。
ただ、結衣がどこまで知っているのかが気になった。
今後は気を付けないと、結衣にチクられてしまうだろう。
さっそくその晩、入手したばかりの番号に電話をかけた。
その日は通じず、翌日にもう一度。
電話するのには、もう一つの目的がある。
GWを前にして、そろそろ"あの約束"を果たす日を決めようと思ったのだ。
『…も、もしもしっ』
「…よう」
『…こんばんわ…』
初めてケータイ越しに聞く亜紀子の声は、なんだか細くて心許無かった。
痩せすぎて声量まで減ったのかと思ったが、たまに挑発すると本来のチャキチャキした答えが来る。
しかし電話のせいか、声だけ聞くとやけに女らしく感じて、結局いつもの加虐心を発揮してしまうのだ。