「エデンの蛇」-4
連日降り続いた雨が嘘のように、その日は澄んだ青空が広がっていた。
「この良き日にこうして卒業の日を迎えられることを…」
壇上では、卒業生が澄んだ声で答辞を読み上げている。
その卒業生代表とまさか自分が“関係”してしまったなんて舞には考えられなかった。
あれは、季節の終わりを告げる雪が見せた幻だったのだろうか。
いつの間にか滞りなく式は進み、拍手に包まれた卒業生が退場していく。
緊張した顔。
ホッとした顔。
涙に濡れた顔。
どの顔も、何かをやり遂げたような誇らしげな表情に彩られている。
…2年後、自分が卒業するときはどんな気持ちなんだろうか。
おそらく、舞のモラトリアムはここで終わるだろう。卒業後、舞は残された日々を牢獄のような街に囚われて躯を売って過ごすのだ。
カサッと言う音がして舞は夢想から醒めた。
膝の上には卒業生が胸につけていたハズのコサージュが一つ置かれている。
振り返ると、先輩が通り過ぎたところだった。
舞は造られた花を手に取ってみる。
枯れない花はいつまでも舞の手で白い輝きを放っていた。